内科学 第10版 「ダニ感染症」の解説
ダニ感染症(感染症および寄生虫疾患)
人体内ダニ症(human acariasis)ともいう.無気門亜目のコナダニ類や前気門亜目のホコリダニ類など体長が数百μmほどの微小なダニによる感染症である.皮膚の角質層や毛囊内に寄生するヒゼンダニ,ニキビダニは一般に除く.臨床検体の尿,便などの排泄物,腹水,胆汁,痰などからダニの成虫,卵などが検出される.腸ダニ症,尿ダニ症,肺ダニ症と区別されている.
1)腸ダニ症(intestinal acariasis),尿ダニ症(urinary acariasis),肺ダニ症(lung or pulmonary acariasis):
寄生虫卵の検便時にダニが検出されることがある.腹痛,下痢,腹部の痙攣などの症状のある人に高率にダニが検出される.いままでにアシブトコナダニ,ムギコナダニ,ケナガコナダニなど20種ほどのダニ類が検出されている.消化管内での寄生の場合,ダニの鋏角,顎体部,脚などで消化管の組織を機械的に刺激または傷害を与えることがあり,直腸検査では微小な潰瘍も確認される.尿から検出されるダニの種類は腸ダニ症と変わらない.尿潜血,頻尿などの症状と関係が認められており,膀胱鏡による検査では上皮細胞の過形成,リンパ球の浸潤,膀胱基底部の濃瘍などが認められる.肺ダニ症では痰からダニが検出され,咳,肺機能の低下,喘息,不眠などとの関係が指摘されている.
2)ダニ感染症の疫学:
患者の職業との関係では,漢方の薬草,米,小麦などの貯蔵施設の労働者から高率に患者が認められ,上記施設の貯蔵物資や空気からダニ類が検出される.ダニの密度は,温度,湿度,施設の衛生状態などで異なるが,薬草1 gあたり1000匹をこす場合もあり,環境対策や体内へダニ類が侵入できない対策が求められる.ヒョウヒダニ抗原を用いたプリックテスト(prick test)やELISA法が開発されている.
3)ダニの感染経路:
上記の微小なダニ類は,乾燥食品以外にいろいろな環境で生存できる.食品,呼吸経由で人体内にダニが侵入し,消化管や肺へ到達することは理解しやすい.しかし,尿道や膀胱での寄生は,感染経路が明確に解明されていない.消化管や肺へ侵入したダニ類が血液循環系に侵入して,最終的に尿管の血管に到達して腎臓経由で膀胱に達する可能性も指摘されている.[小林睦生]
出典 内科学 第10版内科学 第10版について 情報