改訂新版 世界大百科事典 「チャストゥーシカ」の意味・わかりやすい解説
チャストゥーシカ
chastushka
ロシア民謡の一形式。最も新しい形式で,19世紀の後半に成立した。地方によってはチャスタヤ,チャストゥーハなどとも呼ばれる。はじめ農村でうたわれたが,1861年の農奴解放後,出稼農民を吸収した都市の工場などにも普及した。一連がふつう4行からなり(そのうち2行目と4行目の脚韻を合わせるのが通例),かなり速い調子でうたわれる。アコーディオンやバラライカの伴奏がつくこともあるし,歌唱に合わせて男女の踊手が別々に,あるいは向かい合ってステップをふむことも多い。最初から内容的には恋愛を主題とする軽妙でこっけいな歌詞が圧倒的に多かったが,やがて新旧の価値観の対立を扱った社会的主題の作品もあらわれるようになった。いずれの場合も,人間関係と自然現象との対比,語呂合せ,大げさな誇張などの手法が好んで用いられる。一般に特定の個人への直接的な呼びかけ,あるいは掛合いという形をとるので,即興性も重要な特徴をなしている。チャストゥーシカを独立した歌謡の形式としてはじめて認めたのは作家のG.ウスペンスキーであるが(1889),ロシア各地で本格的な収集と刊行がはじまるのは20世紀になってからである。ブロークやエセーニンをはじめとして,現代のソビエト詩人にいたるまで,この民謡の形式をかりて作品を創作している。
執筆者:中村 喜和
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報