チャンドス卿の手紙(読み)チャンドスきょうのてがみ(その他表記)Ein Brief des Philipp Lord Chandos an Francis Bacon

改訂新版 世界大百科事典 「チャンドス卿の手紙」の意味・わかりやすい解説

チャンドス卿の手紙 (チャンドスきょうのてがみ)
Ein Brief des Philipp Lord Chandos an Francis Bacon

オーストリアホフマンスタールが1902年に発表した,架空の書簡体散文。17世紀イギリスの文人貴族フィリップ・チャンドス卿が友人にあてて,文学活動を断念するにいたった経緯を書き綴るという体裁をとっている。かつては美しい言葉織物を苦もなく織り出すことができたチャンドス卿が,いつとなく失語症的な状態に陥り,作品を書くどころか,つじつまの合ったまとまりのある言葉遣いすらできなくなる。言葉は〈腐った茸のように口の中で粉々になる〉。この設定から,現代における言語の危機的状況,すなわち言葉と物とが正確に対応せず,言葉の秩序が失われると同時に物の野放図な無秩序が始まるという文化の解体過程を読み取ることができ,その時代批評・文明批評的な意味合いでこの文章はとりわけ重要視されている。しかし,紋切型の言葉が消えた後,物がいかに新鮮な未知の相を示すか,言葉を超えた物への神秘的な直観がここで強調されているのを見落としてはならない。
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「チャンドス卿の手紙」の意味・わかりやすい解説

チャンドス卿の手紙
チャンドスきょうのてがみ
Brief des Lord Chandos

オーストリアの詩人,劇作家ホーフマンスタールエッセー。 1902年発表。架空の人物チャンドス卿から F.ベーコンにあてた手紙に仮託して,かつては一つの統一体と感じられていた全存在が,突然断片的にしかとらえられなくなり,霊感が生じても表現する言葉を失った不毛の心的状況を述べた作品。

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