改訂新版 世界大百科事典 「ティモテオス」の意味・わかりやすい解説
ティモテオス
Timotheos
古典期ギリシアの抒情詩人。生没年不詳。イオニアのミレトスに生まれ,前5世紀末から前4世紀前半ころに活躍し,悲劇詩人エウリピデスとの親交が伝えられる。作品は隠滅したが,1902年古代パピルス文書巻より,彼のディテュランボス詩《ペルシア人》の結末部分約240行が発見された。これはサラミスの海戦で惨敗を喫したペルシア勢のありさまを,演劇的手法をまじえつつ活写した抒情詩形式の歌物語であるが,同形律格の反復対応は認められない。イオニア,アッティカ,ドリス3方言の混合言語を用い,凝った複合形容詞を多用するなど,きわめて技巧的色彩の濃い詩風で,意味を解しがたい表現も少なくない。最後の部分は自分の詩が新奇な装いをもつことについての弁明の辞をつづっており,自分は古くは詩聖オルフェウス,近くは弦曲の祖テルパンドロスTer pandros(前7世紀中葉,レスボス島出身の詩人,音楽家)の流れをくむものであるという。詩人の自署sphragisで結ばれている。この断片は前4世紀の筆で,現存するパピルス文書の中では最も古い部類に属する。
執筆者:久保 正彰
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報