ミレトス(読み)みれとす(英語表記)Miletos

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ミレトス」の意味・わかりやすい解説

ミレトス
Milētos; Miletus

小アジア南西岸の古代ギリシアの都市。現トルコのサケイ南方に位置する。トルコ名バラト。居住年代はミノア文明にまでさかのぼると考えられる。ホメロスアカイア人と戦ったカリア人の居住地と伝える。伝承によれば,ギリシア系都市としての創始者はピュロスネレウスであった。エーゲ海沿岸,マイアンドロス河口に位置し,アナトリアの物資の輸出港として栄えた。東ギリシア最大の都市としてエジプトのナウクラテスをはじめとして,黒海沿岸などに 60以上の植民市 (アポイキア ) を建設。主要なものとして,アビドスキュジコス,シノペ,オルビアパンチカパイオンなどがある。前 499年頃にはイオニア諸都市の反乱を率いたが,ペルシアに敗北。ペルシア戦争後は,デロス同盟の一員となったが,前 412年に離反。前 334年アレクサンドロス3世 (大王) に征服された。その後,ヘレニズム諸王朝と友好を保ち,ローマ時代にはトラヤヌス帝治世まで,貿易港としての重要性を保っていたが,次第に港が土砂に浸食されるにつれて衰退し,6世紀頃には廃虚と化した。前5世紀以前には先進文化都市として,タレスアナクシマンドロスアナクシメネス,ヘカタイオスらのミレトス学派 (→イオニア学派 ) の哲学者を輩出し,前5世紀頃もアテネピレウスの設計者ヒッポダモス,詩人チモテオス,ペリクレスの愛人アスパシアらが当地出身として有名である。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ミレトス」の意味・わかりやすい解説

ミレトス
みれとす
Miletos

小アジア(現在のトルコ)西岸部、イオニア地方にあった古代ギリシアの代表的ポリス(都市国家)。英語名ミリータスMiletus。紀元前11世紀ごろ建設されたとされるが、前700年ごろまで初期の歴史は不明。前8~前6世紀の植民時代には、プロポンティス(現在のマルマラ海)、黒海沿岸に多数の植民市を建設し、エジプトにも進出してナウクラティス市に足場を築いている。当時のミレトスは、有名な羊毛織物の生産、またギリシア哲学や歴史・地誌学を創始したタレス、アナクシマンドロス、アナクシメネス、ヘカタイオスらミレトス学派の輩出によって、商工業の発達と精神文化の高揚が察せられる。政治的には前6世紀に隣国リディア、次にペルシアに屈したが、かなり優遇された状態にあった。内政ではトラシュブロスヒスティアイオスアリスタゴラスなどの僭主(せんしゅ)が出現したが、アリスタゴラスがイオニア反乱(前499~前494)の張本人であった。結局反乱は失敗に終わり、以後往時の繁栄を回復することはなかった。のち強国の間にあって独立を維持したが、前129年以降ローマの属州都市となった。

[豊田和二]

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