日本大百科全書(ニッポニカ) 「ディロフォサウルス」の意味・わかりやすい解説
ディロフォサウルス
でぃろふぉさうるす
dilophosaur
[学] Dilophosaurus wetherilli
竜盤目獣脚類(亜目)ケラトサウルス類(下目)コエロフィシス上科Coelophysoideaに属する恐竜。北アメリカのジュラ紀前期、約1億9960万年~1億8960万年前の地層から産出した。全長約6メートル、推定体重約300~400キログラムとされる二肢歩行の肉食恐竜。「ディ」は二つの、「ロフォス」はとさかや隆起という意味であるが、これは頭の上に1対の板状のとさかをもっているからである。保存状態のよい頭骨と骨格を、長頸(ちょうけい)類の専門家として知られるサミュエル・ウェルズSamuel Welles(1909―1997)が研究した。口先から眼窩(がんか)の前まで走る1対の隆起が発達してとさか状になっているが、この骨はきゃしゃなので、おもにディスプレー用であったのではないかと推測されている。とさかのない個体もあるので、性差を表すものかもしれない。この恐竜の体はかなり大きいが、細身で頸(くび)が長く、体の特徴は小形のコエロフィシスCoelophysisと共通する点が多く、近縁であったと思われる。一般に獣脚類の恥骨(ちこつ)の先端にあるはずの大きな膨らみ(ブーツ)がなく、その点ケラトサウルスCeratosaurusやコエロフィシスと似る。上顎(じょうがく)が鼻孔の下で大きくくびれており、動かせたらしい。頭骨も下顎も骨のつくりがきゃしゃで、歯はやや湾曲した円錐(えんすい)状で普通の獣脚類の歯とはかなり異なる。体のつくりも頑丈ではなく、腐肉食ではないかといわれる。一方、あごや歯の特徴は魚をしっかりつかむのには向いているので魚食性であったという説も出ているが、実際に食べられた獲物を腹中にもった化石は発見されていない。鼻孔の位置は、ほかの獣脚類よりもずっと後退している。上顎の歯は細く鋭くきわめて大きいので、鉤(かぎ)づめより破壊力があり、大きな動物、たとえば大きな古竜脚類を餌(えさ)にしたともいわれる。鼻先の動きが自由自在であったから、器用に小さな獲物をくわえることができたであろう。マイケル・クライトンMichael Crichton(1942―2008)の小説や映画『ジュラシック・パーク』(1993)では、実際よりずっと小さい姿に描かれ、口から毒を飛ばす恐竜とみなされた。
[小畠郁生]