日本大百科全書(ニッポニカ) 「コエロフィシス」の意味・わかりやすい解説
コエロフィシス
こえろふぃしす
coelophysis
[学] Coelophysis bauri
竜盤目獣脚類(亜目)ケラトサウルス類(下目)コエロフィシス上科Coelophysoideaに属する恐竜。アメリカの三畳紀後期の初期、約2億1800万年~2億0500万年前の地層から産出した原始的な獣脚類。全長約2.8メートル、体重15キログラムないし20キログラムと推定。発見されたのは1880年代であるが、一般に知られるようになったのは、1947年にニュー・メキシコ州のゴースト・ランチ採掘場で発掘が開始されてからである。エドウィン・コルバートを長とする調査隊が骨格化石500個体以上の存在を示した。これは本種の群れがほぼ同時に死んだことを示すと思われるが、本当の死因は不明で、一説によると干上がった砂漠の川底に、大水が突然流れ込んだのではないかともいう。本種の体形は、ほとんどが優美でほっそりしている。頭骨は扁平(へんぺい)で細長く、ほぼ三角形で、とがった鼻先をもつ。頸(くび)が非常に長く細く、胴体はきゃしゃで尾が長く、腕はとても小さい。本種は小形肉食恐竜なので、獲物は小さな動物であったと思われる。頭骨には、ぎざぎざの鋸歯(きょし)のついた平たい歯が多数生えており、長い鼻先にはあごの開閉のための大きな筋肉がある。折り重なるようにして発見されたという化石の産状から察すると、本種は群れをつくって獲物を追っており、かなり大きな獲物までしとめていたのではないかという説もある。群れのなかには幼体も多く、大きさが成体の3分の1ほどで軽いものであった。2頭の成体の腹の中に幼体が発見されたが、骨盤の幅が狭く卵胎生とは考えにくいので、共食いをしたと推測されている。体中の幼体骨格は壊れていないので、かまずに飲み込まれたらしい。成体には、きゃしゃなタイプとがっしりしたタイプがある。前者では頭骨と後肢が長く軽量で、前肢は他動物に比し短い。後者では大腿骨(だいたいこつ)の骨頭の下にかなり明瞭(めいりょう)な外側隆起までもっている。この点ではジュラ紀前期、約1億9960万年~1億8300万年前の地層から産出したシンタルススSyntarsusにも上記と同様な変異が認められる。きゃしゃなタイプが雄で、がっしりしたタイプが雌という可能性が指摘され、ティラノサウルスTyrannosaurusの場合と似る。
[小畠郁生]