日本大百科全書(ニッポニカ) 「デモクリトス」の意味・わかりやすい解説
デモクリトス
でもくりとす
Demokritos
(前460ころ―前370ころ)
古代ギリシアの哲学者。トラキア海沿岸の町アブデラに生まれる。レウキッポスの弟子と伝えられる代表的な原子論者。倫理学、自然学、数学、音楽、技術に関する膨大な著作が彼に帰せられているが、残っているのは断片ばかりである。万物のもとのもの(アルケー)は不生・不滅・不変のアトム(アトモスあるいはアトモン。分割できないもの)である。これは数において無限であるが、形態(たとえばAとN)と位置(HとH)によって互いに異なっていて、空虚(空間)のなかを運動しており、その離合集散によって万物が生成したり消滅したりする。したがって、「慣(なら)わしによって色、慣わしによって甘さ、慣わしによって苦さ。だが、実のところはアトムと空虚」である、と説いている。魂は一種の火であって、球形のアトムからなっており、肉体と同様に死滅するとか、感覚は、感覚されるものから放散される感覚されるものに似た像(エイドーラ)が、感覚するものの感覚器官に接触しておこるとも説いていたらしい。また、享楽の節度と生活の均衡によって得られる「心地よさ」(エウテューミエー)を倫理的な理想としたが、「笑うひと」(ゲラシーノス)というあだ名が与えられたのはこのためであろう。彼にはほかに「智」(ソフィアー)というあだ名も贈られていて、後代に与えた影響は著しい。
[鈴木幹也]
『山本光雄訳・編『初期ギリシア哲学者断片集』(1958・岩波書店)』