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原子論 げんしろん atomism; atomic theory

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

原子論
げんしろん
atomism; atomic theory

原子説またはアトミスティクともいう。古代の自然哲学に現れ,時代とともに形式,内容を変えつつ,現代にいたる基本的な科学思想。ギリシアの哲学者レウキッポスを経てデモクリトスが大成した。レウキッポスの仮説についてはわかっていないが,デモクリトスは原子を仮定することによって物質は不変であるとするパルメニデスの考えを感覚体験と調和させ,物質界の多様性は等質な原子の結合の多様性に由来し,変化とは原子結合の変化にほかならないとした。

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デジタル大辞泉の解説

げんし‐ろん【原子論】

世界は空虚な空間と無数の不可分原子からなり、同種原子の離合集散に応じて感覚的物質が形成されるとする、古代ギリシャに始まる哲学説。19世紀になって、元素それぞれ一定の性質および質量をもつ原子からなり、化合物は原子が結合した分子からなるという説をJ=ドルトンが実証、現代原子概念の基礎をつくった。アトミズム。→原子説

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百科事典マイペディアの解説

原子論【げんしろん】

英語atomismなどの訳。物質は究極・最小・不可分の原子(ギリシア語アトモン)から成るとし,その離合集散によって物質の性質と運動とを説明する説。古代ギリシアではレウキッポスが創唱し,デモクリトスが完成したとされ,エピクロスルクレティウスが受け継いだ。
→関連項目エネルギー論還元主義原子個人主義唯物論

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世界大百科事典 第2版の解説

げんしろん【原子論 atomism】

物質を分割していくと,それ以上分割できない究極・最小の単位すなわち〈原子〉に到達する,という説を原子論の定義として採るとすれば,後述されるように古代インドにも原子論は認められる。しかし以下のような,ギリシア=ヨーロッパの原子論(アトミズム)の伝統のもつもう一つの論理的特徴はもたないと考えられる。ギリシア原子論ではレウキッポスデモクリトスという二人の名が結び付けられる。物質が〈粒子〉から成るとする考え方は,むしろギリシアに一般的であるが,デモクリトスの完成したといわれる原子論は次の基本的な特徴を備えている。

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大辞林 第三版の解説

げんしろん【原子論】

世界の現象は分割不可能な最小粒子(アトム)の離合集散によって説明されるとする説。世界をとらえる基本的考え方の一つとして、古代のギリシャ(デモクリトス)・インドの哲学(ジャイナ教など)以来、近・現代の物理科学(ドルトンの原子説・アボガドロの分子説・原子物理学・素粒子論など)に至るまで諸説がある。エネルギー一元論・生気論などの現象論的な見方や「場」の理論・全体論に対立する。原子説。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

原子論
げんしろん
atomism

自然はそれ以上分割できない微粒子(原子)と真空からできているという基本的自然観の一つ。自然の連続説に対する不連続説、目的論に対する機械論、観念論に対する唯物論の立場にたつ。紀元前5世紀の古代ギリシアでレウキッポスと弟子のデモクリトスが初めて唱えた。タレスらの一元論が、パルメニデスによって論理的批判を浴び、世界は均質で不変であると説かれたのち、現実の生成消滅を擁護するために考えられた多元論で、原子はパルメニデスの「有るもの」と同じく一様で不変の実質をもつが、大きさと形状のみが異なる。無数の原子が無限の空虚を動き、衝突により鉤(かぎ)ホックのように機械的に結合あるいは分離し、世界の諸変化が生じる。物体の差異は原子およびその配列の違いのみによる。こうした古代原子論は部分的変更(たとえば機械的結合のかわりにI・ニュートンによる力、多種の形状のかわりにJ・ドルトンの球状など)を受けながらも、一様な実質をもつ不可分・不変の原子という基本概念を維持し続けた。この説は観念論的元素説論者のアリストテレスによって反対され、古代ではエピクロスおよびその学派が道徳哲学の基礎として受け継いだだけであった。
 アリストテレス学説が風靡(ふうび)した中世イスラムおよびヨーロッパでも原子論は衰微したままであったが、微粒子概念はアリストテレス説にも潜在的に含まれており、スコラ学者たちは自然の最小粒子(ミニマ)についてさまざまに論じた。ミニマはそれ自体性質をもち、物体の変化は構成ミニマの内的変化によるものであり、原子とは異なるが、時代が下ると原子論との混交がおこった。ルネサンス期には人文学者たちによる古代原子論の翻訳や紹介の結果、粒子論や原子論が流行した。フランスの司祭ガッサンディによるエピクロス説の紹介(1649~)は、トリチェリの真空の発見(1643)もあずかって原子論の普及に力があり、R・ボイルらに強い影響を与えた。原子とマクロな物体の間に比較的安定な粒子集合を想定するボイルの階層的粒子構造説は、後の原子・分子説の先駆をなすものであった。
 一方、古代において原子論と対立した元素説も、化学反応の間にも変化を被らずに保存されるものがあると化学者たちが考え始め、原子論に接近していった。オランダのゼンナートの、四元素に対応した4種の原子あるいは粒子の想定はその現れである。
 しかし、元素説と原子論の完全な結合は、四元素説を払拭(ふっしょく)した近代的元素説の誕生後であった。1803年にイギリスのドルトンは、ラボアジエの諸元素に原子を、化合物に分子(複合原子)を対応させ、それぞれの相対重量を算出した。ここに初めて、異種原子の規定がほぼ実証的に重量によってなされたのである。この結果、哲学的傾向の勝っていたこれまでの原子論は、科学の名に値するものになり、ラボアジエの元素説とともに化学を一新し、実り豊かな成果をあげることとなった。スウェーデンのベルツェリウスは精確な原子量決定の努力を長年続けた。
 しかし、分子中の原子数を決定する一貫した根拠を欠いたため、倍数比例則などの傍証にもかかわらず、原子論への懐疑が化学者の一部にあり、原子量のかわりに当量を用いる者も現れた。単体における多原子分子の想定によって、ゲイ・リュサックの気体反応の法則と原子論とを調和させたアボガドロの仮説(1811)はこの問題を解決するはずであったが、実証性に欠けていると考えられた。この世紀に新しくおこってきた有機化学において、原子量が不確定なために、一つの化合物の分子式がさまざまに決められ混乱が生じた。この問題を解決するためにドイツのカールスルーエで開かれた国際化学者会議(1860)の閉会後に配付されたカニッツァーロの論文別刷はアボガドロの仮説に実証性を与え、ついに原子量問題に決着をつけた。この結果、すでに生まれつつあった原子価概念が明確になり、有機化学構造論の発展、J・L・マイヤー、メンデレーエフによる周期律の発見(1869)が引き続いた。後者は、「諸元素の化学的性質と物理的性質は原子量に周期的依存性をもつ」(メンデレーエフ)ことを明らかにしたもので、ドルトンの開始した元素と原子の統一を、その本質解明は20世紀を待たねばならなかったが、名実ともに完成したものである。
 原子論は他の分野でも成功を収めた。とりわけ、気体分子運動論は化学の一学科をつくりあげるとともに、統計熱力学の端緒となった(ボルツマン)。原子論に基づくブラウン運動の解明、ことにアインシュタインの拡散方程式の実験的検証は、原子論への懐疑を一掃した。
 19世紀末の電子および放射能の発見に始まる20世紀の原子科学は、不可分・不変と考えられた原子が内部構造をもち、他に転換しうることを明らかにして、原子論を歴史的概念に変える一方、自然の一階層としての原子の存在を証明した。中世ヨーロッパで流行した「錬金術」すなわち、高価な金を化学的反応でつくりだそうという試みは、原理的に不可能であることが明らかになった。元素を変換する錬金術は現在では、採算は合わないとしても原子核反応を用いて行うことは可能である。原子力発電の使用済み燃料の放射能処理への応用も検討されている。それ以上分割できない微粒子、あるいは自然の最小粒子という概念は、原子を構成する電子と原子核へ、さらに原子核を構成する陽子と中性子や湯川の中間子などの素粒子の発見への原動力となった。現在では、さらに素粒子を構成する最小単位としてクォークquarkの存在が確立している。[肱岡義人・阿部恭久]

インドの原子論

インドでは古くからさまざまな要素(元素)説が展開されてきたが、紀元前後以降、論理的反省が加えられ、原子論が形成された。原子論は、とくに仏教のアビダルマ学者、ジャイナ教徒、ニヤーヤ、バイシェーシカ両学派によって主張された。ニヤーヤ、バイシェーシカ両学派によれば、すべての物質は地水火風という要素から構成されているが、それぞれの要素は無限に分割できるわけではない。もしも無限に分割できるならば、巨大な山も、微小なケシ粒も、ともに無限の部分からなることになり、大小の比較の根拠がなくなってしまうからである。そこで、もはやそれ以上分割ができない基礎単位があることが要請される。この基礎単位が原子である。したがって、原子は部分を有しない、つまり他のものによって構成されないから永遠に不滅である。原子が2個で二原子体、二原子体が3個で三原子体というようにして、世界のあらゆる物が構成されるのであるが、われわれの肉眼で見ることができる最小のものは三原子体であるという。[宮元啓一]
『B・スコーンランド著、広重徹他訳『原子の歴史』(1971・みすず書房) ▽江沢洋著『だれが原子を見たか』(1976・岩波書店) ▽古川千代男著『物質の原子論――生徒と創造する科学の授業』(1989・コロナ社) ▽化学史学会編『原子論・分子論の原典』1~3(1989~1993・学会出版センター) ▽西川亮著『古代ギリシアの原子論』(1995・渓水社) ▽板倉聖宣著『原子論の歴史 上――誕生・勝利・追放』『原子論の歴史 下――復活・確立』(2004・仮説社)』

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世界大百科事典内の原子論の言及

【アトム】より

…原子と訳される。レウキッポスやデモクリトスによって代表されるギリシアの原子論哲学が提出した用語。〈切る〉を意味するギリシア語の動詞temneinと否定の前綴aとからなる形容詞atomos(切られない)に由来し,単数ではatomon,複数ではatomaと呼ばれた。…

【エピクロス】より

…原子論と快楽主義で有名な古代ギリシアの哲学者。サモス島の生れ。…

【機械論】より

… 古代ギリシアにおいてすでに,自然を物質的要素から構成されているものとして見る態度があった。ソクラテス以前の自然哲学がそれであるが,とくにデモクリトスを代表とする原子(アトム)論は要素の形態と配列と位置の相違によって事物の質的変化や生成消滅を説明し,魂をも一種の火であって球形のアトムであるとした。それは自然自体の中に目的を認めず自然を有機体と見ない点で機械論であったといってよい。…

【四大】より

…そして前5世紀のエンペドクレスは,火・空気・水・土の四元素=四大説を唱えるに至った。もっともデモクリトスのアトムatom論にみられるような原子論も展開された。しかし四元素の考えが,プラトン,アリストテレスという両哲学者により,世界構築の素材要因として受け入れられたことから,元素論は四元素という形で後世に受け継がれた。…

【ジャイナ教】より

…その分割可能な最小単位を原子(パラマーヌparamāṇu)というが,原子の状態では知覚できない。ジャイナ教はインドで原子論を説いた最初の学派である。善悪の行為から生ずる業(カルマkarma)も物質とみなされる。…

【真空】より

…その意味では,現実のこの世からは一歩退いた無為の(つまり人間とのかかわりを直接的にはもたない)領域に属するといえる。機能的にはよく似たとらえ方がギリシアの原子論にある。デモクリトス,エピクロス,ルクレティウスという系譜をたどる西洋古代の原子論では,物質は究極的に,それ以上分けることのできない粒子(原子=アトム)にまで分割できるが,その最終的な物質単位は,論理的に,離散的な存在である(もし離散的でなく,連続的ならば,さらに分割が可能なはずであって,そのことは,原子の定義に反する)から,原子と原子との間には,もはや,いかなる物質も存在しない空虚な空間が存在しなければならない。…

【ドルトン】より

…イギリスの化学者,物理学者。化学的原子論を唱え,哲学的傾向の強かった原子論を科学に高める。カンバーランド州イーグルスフィールドの半農半工の家の出。…

【物質】より

…なぜなら,空間は,物質を容れる器のごとく,物質の存在を可能にするのに必須なものではあり,しかもそれ自体としては,人間の感覚によって覚知されるものとはならないからである。 こうした近代主義的立場に立って眺めてみると,古代においてこうした物質観に最も近いのはデモクリトスの原子論である。デモクリトスの原子論では,原子は感覚的性質をもたずに,容器としての空間のなかにあって,ひたすら運動をしていると考えられている。…

【物理学】より

…第1に彼らは例外なく,依然として自然学を聖なる構造のなかで(つまりキリスト教神学の有機的一部として)とらえており,第2には,彼らの多くはルネサンスの自然観に濃厚に浸されていて,ニュートンの体系でさえ今日の物理学の性格とはおよそ異なった神秘的な要素を色濃くもっていた。自然
[原子論的発想と力学]
 しかし,18世紀以降しだいにあらわになる〈物理学的〉(と呼びうる)な態度は,前代のそうした人々の仕事のなかのある特定の部分を誇張し選別して凝縮した結果として成立したものであるといえよう。ここでいう〈物理学的〉態度とは,おおまかにいえば二つに分類される。…

【レウキッポス】より

…ミレトス生れとも,エレア生れとも言われている。初めエレアのゼノンの弟子としてエレア学派から出発したが,後に同派を真っ向から批判する原子論を提唱したことで知られる。エレア学派は万有が〈一〉であり,それは生成消滅も運動もしないと考えたが,彼は史上初めて永遠に運動する無限の要素が存在し,その離合集散によって生成消滅や運動が起こるとして,その要素に〈原子〉(アトム)という名を与えた。…

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