日本大百科全書(ニッポニカ) 「トウパンチャン」の意味・わかりやすい解説
トウパンチャン
とうぱんちゃん / 豆瓣醤
中国特有の調味料の一つ。『斉民(せいみん)要術』(6世紀ころ)のなかで、黒大豆を蒸したのち、もんで皮をとり、発酵させる豆醤の作り方が、すでに肉醤、魚醤、芥子(けし)醤などとともに記載されている。主要な産地は揚子江(ようすこう)流域で、とくに安慶(あんけい)産はもっとも有名。塩辛い発酵調味料で、タンパク質、アミノ酸、糖分が多く、栄養価値の高い食品である。
ダイズを洗浄後、水に漬けて十分吸水させる。浸漬(しんし)時間は温度によるが6~12時間くらい。浸漬したダイズは竹の籠(かご)に移し、布で覆って発芽させる。乾かさないように2~3時間おきに1回水をまいて、2~3日間置くと、芽が豆の長さの3分の1~4分の1に伸びてくるので、それを蒸籠(せいろう)に入れて、2~3時間蒸す。弱火で小麦粉を薄く黄褐色になるまで炒(いた)め、種麹(たねこうじ)と混ぜたものを、蒸した豆とよくかき混ぜる。材料の割合は、豆10キログラム、小麦粉8キログラム、種麹40グラム、ボーメ20度の食塩水11リットルである。混ぜるときマメと小麦粉の適温はいずれも40℃くらい。混ぜた材料は甕(かめ)に入れ、食塩水を加えて発酵させ、毎日1、2回攪拌(かくはん)する。ここまではしょうゆと似た工程であるが、豆瓣醤は、もろみができたときに、コショウ、トウガラシ、ウイキョウなどを粉末にして甕の中に加える。2~3か月間熟成させたのち瓶詰にし、蒸気で殺菌して製品化する。ソラマメでつくった豆瓣醤の水浸時間はダイズの倍くらいかかる。
回鍋肉(ホイクオロウ)(キャベツ、肉、豆腐の生揚(なまあ)げ、豆瓣醤を炒めたもの)、四川(しせん)風の麻婆豆腐(マーボどうふ)、野菜炒めなど、中国料理に使われる。ゆでた薄切り豚肉のたれにもよくあう。
[鄭 耀 星]