小麦を粉砕し、ふるい分けによって外皮、胚芽(はいが)および粗い部分を取り除いて、一定粒度以下にしたもの。日本には小麦粉の定義や規格はないが、アメリカでは、「デューラム(おもにマカロニやスパゲッティ用の硬質小麦)以外の小麦を粉砕、ふるい分けしてつくった食品で、210マイクロメートル(1ミリメートルの1000分の1)の布ぶるいでふるって大部分が通過するもの」と定めており、粒度が粗いものはファリナとかセモリナとよんでいる。うどん粉、メリケン粉とよばれていたこともある。
[長尾精一]
紀元前4000年ごろから石臼(いしうす)で粉をつくっていたが、ローマ時代には奴隷や家畜を使って製粉を業とする者が現れた。石臼の回し方にくふうが加えられ、水車や風車製粉が発達した。17世紀のフランスで、石臼でひいた粉をふるって粗い部分を分け、別の石臼でひいてふたたびふるうことを何回か繰り返す段階式製粉方式が始まり、18世紀末のイギリスで蒸気機関利用の製粉工場がつくられた。アメリカでは自動化が進み、良質の粉をとるための機械(ピュリファイヤー)が考案された。ロール製粉機は1870年ごろ実用化され、その他の工程の改良も進んで、今日の大型製粉工場にみられるような全自動式で衛生的な小麦粉作りが可能になった。日本でも明治の後半からロールによる製粉工場が建設されたが、本格的な設備の増強や改善は間接統制(原料小麦は政府の統制下にありながら、製品の小麦粉は自由に販売できる制度)への移行(1952)以降である。2001年(平成13)時点で、147の製粉工場があり、世界でもトップレベルの工場がいくつかある。
[長尾精一]
パンを常食としてきた国々では小麦粉生産量が多い。アメリカでは栄養的な見地からパンの摂取増を国民に呼びかけた結果、2000年まで小麦粉の生産量が増加していたが、それ以降は伸びが止まっている。ロシア、フランス、イギリスでは生産量が横ばい、または減少気味である。中国は最大の小麦粉生産国で、2000年には7875万トンつくられたが、1990年代前半までに比べると伸びが鈍化している。開発途上国では生活水準の向上や都市化によって小麦粉食品の消費増が続いており、製粉工場の建設も盛んで、小麦粉生産量は増加傾向にある。日本では第二次世界大戦以降1960年代なかばにかけて小麦粉の消費量が急増した。これは小麦粉の用途が広く、食生活の高度化、多様化、簡便化などに欠かせない素材だったからである。ただし、2008年(平成20)の小麦の国民1人当り年間消費量は31.1キログラムであり、1975年(昭和50)以来ほとんど変化していない。
[長尾精一]
日本には、小麦粉の分類を定めたものはないし、数値などでは分類しにくい。しかし一般的には、「強力(きょうりき)粉」「準強力粉」「中力(ちゅうりき)粉(普通粉ともいう)」「薄力(はくりき)粉」という種類と、「一等粉」「二等粉」「三等粉」「末粉(すえこ)」などの等級の組合せで分類されている。つまり、「強力一等粉」とか「薄力二等粉」とよぶ。強力粉や薄力粉などの種類別は原料小麦の品質によって決まり、一・二等粉クラスのタンパク質量は、強力粉で11.5~13%、準強力粉で10.5~12.5%、中力粉で7.5~10.5%、薄力粉で6.5~9%と差がある。タンパク質の性質にも差があり、水とこねた生地(きじ)の弾力は、強力粉が強く、薄力粉は弱い。一等粉や二等粉のような等級別は製粉工程でつくられ、同じ小麦から同時に三~四等級の小麦粉が出てくる。上位等級の粉は灰分含有量が少なく、色もきれいだが、下位等級になるにしたがい灰分が増え、色もすこしずつくすむ。灰分量の目安は、一等粉0.3~0.4%、二等粉0.5%前後、三等粉1.0%前後、末粉2~3%だが、灰分量によらないで総合的な品質特性で分類することもある。「パン用粉」「麺(めん)用粉」「菓子用粉」のような用途別分類もよく使われる。製粉工場が地元で生産された国内産小麦だけでひいた粉を「地粉(じごな)」とよぶことがある。
[長尾精一]
小麦の約9割は輸入で、国内産は1割ほどである。輸入小麦については、「主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律」(食糧法)に基づいて、政府が需要に見合った量の小麦を輸入して製粉会社に売却している。国内産小麦の取引は2000年から民間流通に移行し、政府を経由することなく、生産者(団体)と製粉会社等が売買契約をして流通するようになった。小麦輸送船が工場岸壁に着くと、パイプを差し込み、真空ポンプで吸い上げて、雑物除去、計量後、サイロに貯蔵される。国内産小麦はトラックで納入されることが多い。初めの精選工程では、小麦以外のものを除去し、粒表面を磨いてから、少量の水を含ませて24~36時間タンク中でねかせる。次の挽砕(ばんさい)工程では、ロールとふるい機で無理のないよう段階的に粉砕とふるい分けが繰り返され、ピュリファイヤーという粉中に混じった皮の小片を除去する機械も使って、数十種類の粉に仕分ける。これらを組み合わせて、目標の品質、等級の小麦粉になるように、2~4種類の製品にまとめる。製品をタンクに入れ、品質検査をしたのち、家庭用は500グラムや1キログラムに袋詰めし、業務用は25キログラム包装をするか、タンクローリー車にばら積みして出荷する。日本で製造されている小麦粉はすべて無漂白である。学校給食用には、ビタミンB1・B2が添加される。
[長尾精一]
種類や等級によって成分が異なり、それらを幅で示すと、炭水化物67~78%、タンパク質6~17%、脂質1~3%、無機質は特殊なものを除いて1%以下、水分14~15%である。炭水化物中、繊維が0.2~0.3%で、残りの大部分はデンプン、ペントザンが数%、デキストリン、水溶性糖類も少量含まれている。小麦粉のデンプンは円形か楕円(だえん)形で、直径25~35マイクロメートルの平たい大粒と、2~8マイクロメートルの球形の小粒である。デンプンは小麦粉中で最大のカロリー源で、消化管中で酵素(アミラーゼ)や酸によって分解されてブドウ糖になり、体内に吸収されるが、なまでは吸収されにくいので、熱を加え糊化(こか)して食べる。アミログラフ試験機で小麦粉糊(のり)の性質を調べると、60℃を超えたあたりから糊化が始まり、85℃以上で粘度が最高になる。うどんの独特の食感は糊化したデンプンの性質に負うところが大きい。小麦粉に水を加えてこねると、タンパク質のグリアジンとグルテニンから粘弾性のあるグルテンが形成される。パンが膨らみ、冷えてもその形を保てたり、麺類に独特の歯ごたえある食感を与えるのは、グルテンの働きによるものである。小麦粉生地の粘弾性はグルテンの性質によるところが大きく、ファリノグラフやエキステンソグラフ試験機でそれを調べられる。小麦粉の制限アミノ酸(ほかの必須(ひっす)アミノ酸が十分にあっても、それが少ないために栄養効果がおさえられるもの)はリジンで、他の穀類と同じようにアミノ酸スコアが低めだが、リジンに富む動物性食品と組み合わせると栄養価の高い食事になる。量は少ないが、各種のビタミン、ミネラル類も含まれており、栄養強化することも可能。
[長尾精一]
日本では弥生(やよい)文化の中・末期に小麦が生産され、なんらかの形で食べられていたらしい。麺(めん)は飛鳥(あすか)時代に、唐菓子(とうがし)は奈良時代に中国から伝来し、16世紀後半には南蛮菓子が入ってきた。これらは日本の風土や日本人の嗜好(しこう)にあうよう同化され、日本的な小麦粉食品になっていった。パンもこのころもたらされたが、一般への普及は明治以降である。明治から大正、昭和へと小麦粉利用の幅が広がり、現在の日本では世界でももっとも多用途に利用されている。グルテンの力の差が、いろいろな用途を生み出す。日本での最大の用途はパンで、食パンをはじめ、フランスパン、菓子パン、各種のバラエティー・ブレッド(ドライフルーツ、ナッツ、穀類などを練りこんだパン)の主原料である。強力粉か準強力粉を使用し、粉100に対し水を60~70加えて、グルテンが十分に形成されるようにこねる。ゆで麺、乾麺、即席麺、中華麺、マカロニ、スパゲッティなど麺類に消費される量も多い。うどんには主として中力粉を使用する。機械製麺では粉100に対し水30~35を加えて、ミキサーでおから状にしたのち、ロールで圧延しながらグルテンを形成する。ケーキ、カステラ、ビスケット、クッキー、まんじゅう、かりんとう、ドーナツなど菓子類の用途も広い。薄力粉が主体だが、一部に中力粉も使われる。そのほか、プレミックス、パン粉、焼き麩(ふ)、デンプン工業用の原料になったり、接着剤や飼料としても使われる。
[長尾精一]
てんぷらをつくるこつは、薄力粉を使う、衣は少量ずつつくる、冷水か卵入り冷水中にふるった小麦粉を入れる、手早く軽く混ぜる(グルテンが出すぎて粘らないように)、油はたっぷり用意、揚げる温度は魚が180℃、野菜が170~175℃、揚げたらすぐ油をきるなど。ケーキ作りのこつは、薄力粉を使い、ふるう、卵は十分泡立て、砂糖は2~3回に分けて加える、切り込むようにさっくり軽く混ぜる(練らない)、中火か弱火で170~180℃で焼くなど。ルウも家庭用の薄力粉でよいが、パン、ピッツァ、餃子(ギョウザ)の皮には強力粉を使う。小麦粉はにおいや湿気を吸いやすいので、使ったらしっかり封をしておき、ふるってから料理にとりかかるとよい。
[長尾精一]
『長尾精一著『小麦とその加工』(1984・建帛社)』▽『日清製粉株式会社編『小麦粉博物誌』『小麦粉博物誌2』(1985、1986・文化出版局)』▽『三輪茂雄著『粉の文化史――石臼からハイテクノロジーまで』(1987・新潮社)』▽『小竹千香子著、永井泰子絵『小麦粉のひみつ――たのしい料理と実験』(1991・さ・え・ら書房)』▽『ポメランツ著、長尾精一訳『最新の穀物科学と技術』(1992・パンニュース社)』▽『日本麦類研究会編・刊『小麦粉――その原料と加工品』改訂第3版(1994)』▽『長尾精一著『粉屋さんが書いた小麦粉の本』(1994・三水社)』▽『長尾精一編『小麦の科学』(1995・朝倉書店)』▽『長尾精一監修、清水弘煕編著『独・英・日 製粉・製パン・製菓用語辞典』(1997・製粉振興会、三修社発売)』▽『大塚滋著『パンと麺と日本人――小麦からの贈りもの』(1997・集英社)』▽『板倉聖宣監修『調べてみようわたしたちの食べもの2 小麦』(1999・小峰出版)』▽『柴田茂久・中江利昭編著『小麦粉製品の知識』(2000・幸書房)』▽『斎藤修・木島実編『小麦粉製品のフードシステム――川中からの接近』(2003・農林統計協会)』
小麦を粉砕し,ふるいで皮部と胚芽を分離し,胚乳部を集めたもの。小麦は外皮が強靱で胚乳がやわらかいため,米のように搗精(とうせい)によって皮部を分離することは困難である。このため粉砕により皮部を分離し,粉として利用することが古くから行われてきた。また小麦特有のタンパク質であるグルテンの性質を生かすため,粉として利用することが合理的でもある。江戸時代から明治時代まで続いた在来の水車による石臼製粉は,精製技術が低くふすまの混入などのため粉の色は褐色が強く,粒度も粗かった。うどんに用いられたためうどん粉といわれていた。これに対して明治の初めからパン用などに輸入されたアメリカ製の小麦粉は近代的な機械製粉であり,色が白く品質も格段によく,うどん粉とは別種のように区別され,メリケン粉と称された。小麦粉の加工適性には,タンパク含量(グルテン)とその質が重要な要素で,各種の小麦粉加工品の種類によって必要とされる小麦粉のタンパク含量が変わってくる。とくに大型の食パンではグルテン含量が高く,その質がよいことが要求される。めん類においてもかたい食感(テクスチャー)のものほどタンパク含量の高い粉が用いられている。しかし最近では加工品の品質に対してデンプンの質も重要であることがわかってきた。とくにめん類のかたさの質的要因にはデンプンの品質の影響が大きい。
小麦製粉は小麦種実からできるだけ胚乳部のみを純粋に採り分けることである。このため多数の目立てロールと滑面ロールを用いた段階式製粉が行われている。製粉工程は破砕,ふるい分け・純化,粉砕の三つの基本的な工程からなっている。多数の目立てロール,滑面ロール,ふるい機などを用いて,破砕,粉砕,ふるい分けを繰り返しながら粉砕された胚乳部を採り分ける。原料小麦に対して得られる粉の歩留りは75~80%である。
→製粉
小麦粉の種類は一般には原料小麦の性質によってきまるが,その加工適性はおもにタンパク質であるグルテン含量の多少によってきまる。グルテン含量が最も高く,その麩質(ふしつ)が強いものが強力(きようりき)粉(硬質粉でタンパク質が約12%以上)で,次いでグルテンが多いものが準強力粉(準硬質粉でタンパク質が11%前後)である。グルテン含量が最も低く麩質が弱いものが薄力粉(軟質粉でタンパク質が約8.5%以下)で,中間から薄力粉よりのグルテン含量のものが中力粉(準軟質粉でタンパク質が9%前後)である。ただし原料小麦のタンパク含量が収穫年度や栽培地域により変動が大きいことなどから小麦粉の種類とタンパク含量には規格はない。ここに示した数字は標準的な値である。国産小麦はほとんど中力粉用に用いられるが,粉色が悪いので輸入の白い軟質小麦と混合されて製粉されている。小麦粉は,製粉の際の粉の採り分けにより外皮部混入の度合が変わり,品質に差ができる。このため,等級はおもに灰分含量によって区分され,上位の粉ほど灰分含量が低く,同一種類の粉ではタンパク含量も上位の粉が低くなる。また粉色は白くなる。灰分含量は特等が0.34~0.38%,1等が0.38~0.45%,2等が0.45~0.6%,3等が0.6~1.0%くらいである。この等級の分け方および灰分含量は規格でなく,一応の目安である。製粉各社では種類,等級別に30~40銘柄の小麦粉を販売している。
硬質小麦,軟質小麦ではタンパク含量に大きな差があるが,その他の成分ではデンプン含量以外には差は少ない。小麦粒の成分組成では中心の胚乳部が最もデンプン含量が高く,外層に向かうにしたがってタンパク質,脂質,無機質およびビタミン類の含有率が高くなる。このため小麦の種類,製粉歩留り(等級)によって小麦粉の成分組成は表1のように差がみられる。小麦粉はタンパク質の栄養価が低いことや無機質およびビタミンが不足しているため栄養上やや問題がある。このため小麦粉の栄養強化が世界各国で行われている。日本では学校給食用の小麦粉についてビタミンB1,B2およびAの強化が行われている。以前は製粉後,粉は酸化剤によって漂白することが一般に行われていた。しかしその後しだいに無漂白粉の使用が増加してきたことなどから,1977年11月から製粉業界は全面的に粉の漂白をやめた。
執筆者:柴田 茂久
うどん粉の呼称が示すように,近代以前の日本では,小麦粉はうどんやそうめんの材料として使われることが多かった。麵(めん)(麪とも)は本来は小麦粉のことであるが,日本でも古くは〈無岐古(麦粉)〉と読み,小麦粉の意であった。この麵,あるいは小麦粉の名は奈良時代から見られ,主として索餅(さくべい)をつくるのに用いられた。索餅は中国から伝えられたもので,日本では麦縄(むぎなわ)と呼んだ。小麦粉と米粉を合わせ,塩を加えてこね,縄のようにねじった形にしたものとされ,煮て食べたようである。室町初期までに小麦粉の利用はやや広がり,まんじゅう,うどん,そうめんなどのほか,麩もつくられるようになった。江戸初期には南蛮菓子がもてはやされるようになってカステラの製造に使われ,中期以後にはてんぷらの普及にともない,揚物の衣としての利用も定着するようになった。また,オランダ人の江戸参府などにさいしては,甘酒で小麦粉をこねて蒸したものをパンがわりに供したものであった。
執筆者:鈴木 晋一
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