ソラマメ(その他表記)broad bean
Vicia faba L.

改訂新版 世界大百科事典 「ソラマメ」の意味・わかりやすい解説

ソラマメ (蚕豆/空豆)
broad bean
Vicia faba L.

食用とするマメ科の一・二年生作物。草丈0.4~1mで,茎は直立し,断面は四角形で中空,柔軟で倒伏しやすい。葉は羽状複葉で,葉柄の基部には大型の托葉があり,茎を半ば抱く。晩春,葉腋(ようえき)から出る短い総状花序に2~6花をつける。花は5弁の蝶形花で,花弁は白,淡紫色で,旗弁に黒色斑紋があるのが目だつ。莢(さや)は初めは緑色で直立するが,成熟すると黒色になり,しわがよって下垂する。1莢内には2~4個の種子がある。

 品種が多いが,粒型により大粒種と小粒種に大別される。日本で栽培される品種はすべて大粒種である。大粒種はアフリカ北部,小粒種は中央アジアが原産地とされる。日本への渡来は,聖武天皇の天平8年(736)に,中国を経て渡来したインド僧が伝えたものを,僧行基が武庫(現,兵庫県)で試作したのが最初とされ,これが現在の品種〈於多福(おたふく)〉の始まりと伝えられる。

 世界における生産は,アジアが60%以上を占め,その96%近くが中国で生産される。そのほか,アフリカやヨーロッパなどで栽培されている。日本では,明治以来,昭和初期まで4万ha近くの栽培があり,年間5万~6万tの生産をあげていたが,昭和中期から減少し始め,今では1000haを切っている。国内需要を満たすため,約1万tを輸入している。なお日本では,未熟豆用のソラマメが園芸作物として栽培されている。栽培はおおむねエンドウに準ずる。秋に播種(はしゆ)し,春に開花し,初夏全体の50~70%の莢が黒変したときに株を刈り取り,乾燥する。未熟種子用は,大部分の莢の背部が黒化し始め,下垂しかけたころに収穫する。乾燥種子は,煮豆,いり豆,菓子(甘納豆,あん),みそ,しょうゆ原料とされる。未熟種子はゆでて食用とし,ごく若い莢は,そのまま煮食されることもある。茎葉は緑肥や飼料にし,また土壌保全用の被覆作物としても栽培される。
執筆者:

ソラマメの名は,林羅山の《多識篇》(1630)あたりから見られるようになる。《毛吹草》(1638)に〈大和 空菽〉,《和漢三才図会》(1712)に〈和州の産を良と為す〉とあるように,奈良地方の名産であった。若くてやわらかいものは塩ゆでにして酒のつまみにしたり,飯に炊き込んだり,熟したものは皮に包丁目を入れて煮含めることが多い。乾燥品はいり豆,フライビーンズ,煮豆などにする。煮豆には富貴豆(ふきまめ)とお多福豆とがあり,前者はひと晩水につけてやわらかにもどして皮をむき,黄金色に甘く煮上げる。後者は大粒のものを選んで水でもどし,皮つきのまま黒砂糖などを使って黒くやわらかに煮含める。洋風ではクリーム煮ポタージュに,中国風にはいためたり,煮込んだりする。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「ソラマメ」の意味・わかりやすい解説

ソラマメ
そらまめ / 蚕豆
空豆
broad bean
[学] Vicia faba L.

マメ科(APG分類:マメ科)の一年草。北部アフリカから西アジア原産で、豆を食用、また茎葉を飼料とするため栽培される。茎は断面が四角形の中空で直立し、高さ0.4~1メートル。葉は羽状複葉、葉柄の基部に茎をなかば抱く托葉(たくよう)がある。春に、葉の付け根から短い花茎を出し、5弁の蝶形花(ちょうけいか)を2~6花つける。花弁は白ないし淡紫色で、旗弁の黒色斑紋(はんもん)が目だつ。果実は豆果で、莢(さや)は直立し、空に向かうので空豆の字もあてている。大粒種var. major Harz.と小粒種var. minor Beck.とがあり、大粒種はアルジェリアを中心とする北部アフリカ地域、小粒種は西アジア、カスピ海南部地域の原産である。大粒種の莢は長さ10センチメートル、幅3センチメートルになり、種子は長さ2センチメートルほどで平たい。小粒種の莢は長さ4~5センチメートル、幅は約1センチメートル、種子は丸く径は1センチメートルほどである。1莢内には2~4個の種子があり、成熟すると莢は黒色になり、しわが寄り、大粒種ではやや下垂する。完熟種子は乾豆として利用される。未熟な種子は野菜として利用され、莢の背部が黒化し始めたころに収穫され、若いうちは莢のまま、晩期にはむき実として出荷される。

 普通は10月ころ播種(はしゅ)して翌年の4月から収穫するが、暖かい地方では9月に播種し、12月から収穫する早熟栽培がある。酸性土壌を嫌い連作に弱い。生産の多いのは中国、エチオピア、オーストラリアで、世界生産の5割を占めている。日本では鹿児島、千葉、愛媛、茨城が多く、そのうち、野菜用未熟豆用の栽培は愛媛、香川県をはじめ暖地の諸県で多い。

 栽培の歴史は古く、古代ギリシア、エジプトで栽培された。日本へは聖武天皇(しょうむてんのう)の天平(てんぴょう)8年(736)に中国を経て伝えられた。日本での主要栽培品種はすべて大粒種で食用が主である。ヨーロッパでは完熟した種子を加工してスープなどに利用することもあるが、飼料としての栽培が盛んで、茎葉をトウモロコシヒマワリなどとともにサイレージ(層積飼料)とする。アメリカでも近年、緑肥、飼料用の栽培が増えている。

[星川清親 2019年10月18日]

食品

ソラマメの熟した種子は煮豆(お多福豆やふき豆)、フライビーンズ、甘納豆、餡(あん)などのほか、みそやしょうゆの原料とする。栄養成分は乾豆100グラム中、タンパク質26グラムを含むほか、糖質50.2グラム、脂質2グラム、カルシウム、リン、鉄などの無機物も多く含み、カロチンも多い。未熟豆は野菜として利用され、塩ゆでは季節の味覚として酒のつまみなどに賞味される。甘煮にして料理の付け合せに、またポタージュなどにもよい。発育のごく初期の若い莢はそのまま煮食される。

[星川清親 2019年10月18日]


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食の医学館 「ソラマメ」の解説

ソラマメ

《栄養と働き》


 原産地は中央アジアから地中海沿岸で、わが国には10世紀ごろに伝わってきました。現在は約3割が中国で生産されており、わが国のおもな産地は鹿児島、千葉、茨城などです。
 さやが天に向かって直立するので「空豆」と名付けられました。豆の形が蚕(かいこ)の繭(まゆ)に似ているので、「蚕豆」とも書かれます。
〈ビタミンB群や食物繊維など、単品でもバランスがとりやすい〉
○栄養成分としての働き
 ソラマメは未熟な豆を野菜として用いるのが一般的で、たんぱく質、糖質、カロテン、ビタミンB1、B2、C、食物繊維などを含み、単品でも比較的栄養バランスがとりやすい食品です。
 とくにビタミンB群が豊富に含まれており、ビタミンB1は100g中0.30mg、ビタミンB2は0.20mgと、ほかの未熟豆にくらべて多い点が特徴です。
 ビタミンB1は糖質を分解して疲労物質を体に貯め込まないよう働く成分です。つまり、ソラマメは疲労感をやわらげてくれる食品といえます。ビタミンB2は動脈硬化の原因となる過酸化脂質(かさんかししつ)の生成を防いで、血管の若さを保つのに役立ちます。
 また、ソラマメの脂質には比較的レシチンが多いので、B2とともに働いて血中のコレステロールの酸化を防ぎます。
 ミネラルのなかではカリウムが豊富です。カリウムは体内に入ると余分な塩分と結びつき、体外に排出するのに役立つ成分です。この作用によって血圧を下げるので、高血圧の予防に適した食材といえます。加えて、カリウムは食物繊維との相乗効果で腎炎(じんえん)によるむくみを解消する働きもあります。
 たんぱく質は100g中10.9gと豊富なので、酒のつまみとして食べれば肝機能をまもり、悪酔いを防ぎます。

《調理のポイント》


 旬(しゅん)は4~6月。出はじめのものは皮がやわらかいので皮ごと食べるのがおすすめ。食物繊維がたっぷりとれ、便秘改善に効果的です。
 生のソラマメは鮮度の低下が早く、「おいしいのは3日だけ」ともいわれています。選ぶときは、さやの色が濃く、つやのいいものを選びましょう。乾燥に弱いので、使うまではさやの中に入れて保存します。調理するときは、加熱しすぎないよう注意します。
 むくみがひどいときは、3年以上乾燥させた古いソラマメを使います。ソラマメ5gを3カップの水で半量になるまで煎(せん)じ、1日3回にわけて、空腹時にあたためて飲むとよいとされています。

出典 小学館食の医学館について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ソラマメ」の意味・わかりやすい解説

ソラマメ(蚕豆)
ソラマメ
Vicia faba; broad bean

マメ科の一年生または越年生の農作物。西南アジア原産といわれるが,古くから中国で広く栽培され,日本には江戸時代に渡来して,主として関東以西で栽培されている。茎は四角柱状で直立し,葉は1~3対の楕円形の小葉から成る偶数羽状複葉で,白色を帯びた緑色,質が厚く軟らかい。春早く,葉腋に1ないし数個の淡紅紫色の蝶形花をつける。豆果 (莢) は長さ 10cmあまりで太い円柱形をし,熟すると黒くなる。中に3~4個の腎臓形の種子がある。未熟な種子を塩ゆでや,飯に炊込んで食べ,熟したものは炒り豆,あん,味噌,醤油の原料に,また茎や葉は家畜の餌や緑肥に利用される。

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百科事典マイペディア 「ソラマメ」の意味・わかりやすい解説

ソラマメ

西アジア原産といわれるマメ科の一〜二年生の野菜。古くから栽培されてきた。高さ40〜80cm,葉は羽状複葉で,春,葉腋に微紫色を帯びた蝶(ちょう)形花を開く。さやには3〜4個の種子があり,扁平で大きく,緑〜褐色。大粒の一寸,おたふく,小粒の房州早生(ぼうしゅうわせ)などの品種がある。世界各地で栽培,日本では愛媛,千葉などが主産地。豆をゆでたり煮て食べるほか,お多福豆としたり,油で揚げてフライビーンズとしてビールなどのつまみとする。

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事典 日本の地域ブランド・名産品 「ソラマメ」の解説

そらまめ[豆類]

東北地方、宮城県の地域ブランド。
主に柴田郡村田町・刈田郡蔵王町・栗原市・遠田郡涌谷町などで生産されている。6月に京浜市場へ出荷されるそらまめの約6割が、宮城県産のそらまめとなっている。

出典 日外アソシエーツ「事典 日本の地域ブランド・名産品」事典 日本の地域ブランド・名産品について 情報

栄養・生化学辞典 「ソラマメ」の解説

ソラマメ

 [Vicia faba].マメ目マメ科ソラマメ属の食用にするマメの一種.

出典 朝倉書店栄養・生化学辞典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のソラマメの言及

【豆】より

…この果実の形態(イラスト)から,マメ科はギリシア時代からまとまった植物群として認識されていた。また,種子はモダマやソラマメでも知られるように,被子植物の中では大きなものである。多数の小さな種子(多産多死)を生産する方向に進化したといわれる雑草のなかで比較しても,雑草性マメ科植物の種子は他の大部分の雑草よりも大型である。…

※「ソラマメ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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