日本大百科全書(ニッポニカ) 「トコジラミ」の意味・わかりやすい解説
トコジラミ
とこじらみ / 床虱
bedbug
昆虫綱半翅(はんし)目異翅亜目トコジラミ科Cimicidaeの昆虫の総称、またはそのなかの1種。一般にナンキンムシ(南京虫)という俗名でよく知られる。体は卵形で扁平(へんぺい)、体長4ミリメートル内外のものが多い。複眼は発達するが、単眼を欠く。触角は4節。口器はよく発達し、寄生生活に適する。半翅鞘(しょう)(前翅)は小さく板状で、後翅を欠く。哺乳(ほにゅう)類や鳥類に寄生する吸血性昆虫である。世界で約80種が知られ、多くはコウモリや鳥に寄生するが、なかにはヒトから吸血するものも知られる。
トコジラミCimex lectulariusは、ヒトから吸血する昆虫として有名で、体長約5ミリメートル、体は扁平な卵形で、全体が赤褐色であるが、吸血直後のものは腹部が濃色となる。触角は4節からなり、第1節は短く、第2節がもっとも長い。前胸背側縁は幅広く扁平。世界共通種で、家屋内にすみ、長く発達した口吻(こうふん)で吸血する。交尾後、吸血した雌は10~50個の卵塊を数か月かかっていくつも産み、総産卵数は200~500個になる。トコジラミに吸血されると、不快なかゆみを感じ、睡眠不足をおこすことがある。もともと日本には分布していなかったが、江戸時代末期に外国から購入した船舶とともに持ち込まれたものらしく、明治時代には港などから各地に広がったものと考えられる。最近、とくに近代的都市ではその姿はほとんどみられなくなった。これは、殺虫剤の効果や衛生に対する意識向上によるものである。ヒトから吸血するものはほかに、タイワントコジラミC. hemipterusが知られ、おもに熱帯地方に分布し、琉球(りゅうきゅう)諸島からも記録されている。日本にはトコジラミのほか、コウモリ類に寄生するコウモリトコジラミC. japonicus、ツバメに寄生するツバメトコジラミOecianus hirundinisなどが知られる。
[林 正美]