日本大百科全書(ニッポニカ) 「ナンキンムシ」の意味・わかりやすい解説
ナンキンムシ
なんきんむし / 南京虫
bedbug
昆虫綱半翅(はんし)目トコジラミ科(ナンキンムシ科ともいう)Cimicidaeの総称、またはそのなかの1種をさす。この科の昆虫は世界で74種が知られ、鳥類や哺乳(ほにゅう)類に寄生して吸血する。ヒトに寄生する種類に、トコジラミCimex lectulariusとタイワントコジラミC. hemipterusがよく知られており、前者は通常ナンキンムシとよばれる。
ナンキンムシは、世界共通種で体長約5ミリメートル、体幅約3ミリメートルの扁平(へんぺい)で、楕円(だえん)形をしており、体色は赤褐色。前翅は板状で後翅を欠く。寿命は約1年。生涯に200~500卵を産む。孵化(ふか)した幼虫は親と似たような姿をし、親と同じように吸血する。卵から成虫になるまで1~4か月かかる。前基節(前脚の付け根)中央にまで達する長い口吻(こうふん)をもち、これをヒトの皮膚に刺し込んで吸血する。昼間は床板や壁のすきま、ベッドや家具の下などに一か所に集まって隠れ、夜間にすばやく吸血するので肌の露出部分が刺されやすい。刺された瞬間にはかゆみはないが、しばらくするとひどくかゆくなる。多くの場合刺し口が二つ並んで残るが、これは刺し替えるためらしく、刺し口が一つだけ残ることもある。ナンキンムシが日本に侵入したのは文久(ぶんきゅう)年間(1861~1864)で、オランダから購入した船舶からみつかったといわれており、衛生上問題になり始めたのは明治時代に入ってからである。ナンキンムシの名は、中国の南京(ナンキン)に由来するというより、中国で昔から猛威を振るっていたことによるらしい。
ナンキンムシを駆除するには、昼間の隠れ場所である畳の目、枕(まくら)、マットの縫い目、椅子(いす)のすきま、壁や柱などのすきまや割れ目に殺虫剤を散布するか、または室内を薫煙する。公衆衛生が発達している近年でも、都市部ではしばしば被害がみられる。
[吉川 翠]