日本大百科全書(ニッポニカ) 「トレポネーマ感染症」の意味・わかりやすい解説
トレポネーマ感染症
とれぽねーまかんせんしょう
Endemic Treponematoses
性感染症である性病性梅毒と同じスピロヘータ属に属するトレポネーマ・ペルテヌエTreponema pertenueという細菌によって起こる慢性感染症。風土性トレポネーマ症あるいは風土病性トレポネーマともいう。アジア、アフリカ、南アメリカ、太平洋地域など少なくとも14か国の熱帯雨林地域や温帯湿潤地域で発生しており、WHO(世界保健機関)によって「顧みられない熱帯病」に指定されている。ヒトの密集する環境や不衛生な環境でヒトからヒトへ接触感染し、病巣は四肢にみられることが多い。感染者の多くは15歳未満の若年層で、とくに6~10歳に多く発症する。治療せずに放置すると、感染による腫瘤(しゅりゅう)(乳頭腫)が皮膚に顕著にみられるようになり、のちに歩行困難などの身体障害を伴うこともある。初期の皮膚にみられる腫瘤は顕著な丘疹(きゅうしん)を形成するようになり黒ずんでみえる。内部には細菌(スピロヘータ)が多く含まれ、ここから滲出(しんしゅつ)する体液に触れることで感染が広がる。ときに骨や軟骨の痛みを訴えることもある。自然治癒したのち数年してから骨など外観の変形がみられることがある。
トレポネーマ感染症のなかでは、フランベジア(イチゴ腫、ピアン)がもっとも多い。男児に多く、手足の皮膚のほか骨や軟骨なども侵される。ほかに風土性梅毒(ベジェル)やピンタがある。
治療はアジスロマイシンの投与が第1選択で、フランベジアに対するアジスロマイシンの有効性が確認されたことにより、この感染症の撲滅のめどが立つことになった。アジスロマイシンが適用できないときはペニシリンベンザチンを注射する。1952年から1964年までに、全世界でペニシリン注射による集団治療が企画され、感染者を激減させることができた。
[編集部 2016年5月19日]