知恵蔵 の解説
トワイライトエクスプレス瑞風
「トワイライトエクスプレス」は、1989年から運行を始めた、大阪駅と札幌駅を結ぶ寝台特急列車の名称。同列車は運行開始直後の数カ月は団体専用列車として、後には特定日のみダイヤを持つ臨時列車として2015年3月12日まで運行された。往年のオリエント急行を彷彿(ほうふつ)させる豪華車両が人気を呼んだが、車両の老朽化や青函トンネルの新幹線通過、経由路線の一部がJRから移管されるなどの環境の変化により、その歴史を閉じた。この列車の名を冠したのが、新たに運行予定の瑞風である。トワイライトエクスプレスと同様に車体色を深緑色にしたり、トワイライトエクスプレスが使用していたヘッドマークの天使のデザインをロゴに採用したりと、歴史を受け継ぐ列車であることを強調している。なお、「瑞風」は、みずみずしい風、吉兆を表す風との意を持ち、「瑞穂の国」と呼ばれる美しい日本に、新しいトワイライトエクスプレスという風が幸せを運んでくるという情景をイメージして名付けられたという。
JR西日本は「美しい日本をホテルが走る。~上質さの中に懐かしさを~」と掲げており、著名なインテリアデザイナーや工業デザイナーが企画設計に関わる。食堂車では、フードコラムニストがプロデュースし、当代きっての料理人たちが監修する料理が供される。車両は10両編成で定員は約30人、食堂車、ラウンジカーが連結される。編成の前後両端には展望スペースが設けられ車窓から前後左右が望め、後尾ではオープンエアのデッキに出ることもできる。客室車は各3室の車両が5両、もう1両は1室のみで占有し(一部の通路は車室下のダブルデッカー部分を通る)、バスルームも備える世界でもまれな客室になる。
車窓から西日本に広がる原風景を楽しみ、日本の素晴らしさを再発見してもらうのが狙いで、決まった経路は走らない。同様の周遊型の運行スタイルをとる列車としては、JR九州のななつ星in九州が13年10月から九州圏での観光運行を開始しており、高額な価格設定ながら好評を博している。かつての寝台車の「早く安く遠くの目的地へ」という利点が、隆盛を極めるLCCや夜行バスにより奪われる中、列車の旅そのものを楽しむという方向性を目指したものと評される。
(金谷俊秀 ライター/2015年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報