フランスの女流文学者スタール夫人の評論。1810年に完成・印刷されたが,ナポレオンの政府から発売禁止の処分を受け,13年亡命地のロンドンで出版。ドイツ旅行の見聞の所産で,4部から成り,ドイツ人の習俗,文学,芸術,哲学,道徳,宗教が論じられる。作者はドイツ文化を理想主義的で熱情的なものと見て,社交的で理性的なフランス文化よりも高く評価し,ゲーテ,シラー,カント等の文学者,哲学者を紹介している。その一方《文学論》(1800)ですでに行った南方文学,北方文学の対比を発展させ,北方の〈ロマン的な〉文学であるドイツ文学は,民族精神それ自体から生まれたものであるという点で,ギリシア・ローマの文学を移植・模倣した南方の〈古典主義的な〉フランス文学には見られない多くの長所を持っているという意見を述べている。まもなく出現したフランス・ロマン派の作家たちは,この作品の影響を受けて理想主義や熱情を賞賛し,外国文学の摂取に力を入れるようになった。
→ロマン主義
執筆者:辻 昶
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…フィヒテやヘーゲルの観念論哲学と密接な関係をもったドイツ・ロマン主義文学は,自我の内的活動の探究,夢と現実あるいは生と死の境界領域の探索,イリュージョンの形成と自己破壊(アイロニー)などを主題とするきわめて観念論的かつ神秘主義的な色彩を帯び,ノバーリス,J.P.リヒター,ホフマンらの幻想的な作品を生み出した。 フランスにおけるロマン主義は,ルソー以来の前期ロマン主義の精神風土の上に,スタール夫人のドイツ文学理論の紹介《ドイツ論》や,ゲーテやバイロンの作品の翻訳の刺激を受けて,両国に比べやや遅れて始まったが,よりいっそう激しい華やかな展開を見せた。伝統的な古典主義を信奉する人々とロマン主義者たちとの間の文学論争や党派抗争の様相を呈し,1820年から30年にかけてユゴーとサント・ブーブを中心にロマン派が形成され,ロマン主義運動が展開された。…
※「ドイツ論」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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