改訂新版 世界大百科事典 「ナキウサギ」の意味・わかりやすい解説
ナキウサギ (鳴兎)
pika
ハツカウサギともいう。ウサギ目ナキウサギ科ナキウサギ属に属する哺乳類の総称,またはそのうちの1種を指す。この仲間にはロッキーナキウサギ(アメリカナキウサギ)Ochotona princeps,ヒマラヤナキウサギO.royleiなど,アジアと北アメリカに17種が分布し,いずれもよく似ている。この仲間は原始的な小型のウサギ類であるが,耳が長さ2cm程度と小さく,丸く,外観はウサギというよりも齧歯(げつし)類のモルモットに似る。ただし,耳の基部は円筒状をなしていて,ウサギ類の耳の基本的な特徴を備えている。ピーピーとかんだかい声でよく鳴くのでこの名がある。体色は灰褐色。体長12.5~30cm,体重125~400g。尾はない。
ステップに穴を掘ってすむパラスナキウサギ(アルタイナキウサギ)O.pallasiほか3~4の種を除いて,いずれも岩の多い山岳地帯にすむ。ステップにすむ種が,一定の場所に多数の個体が集まって大きなコロニーあるいは家族群をつくるのに対して,山岳地帯にすむ種は,つがいかあるいは単独でなわばりをつくる傾向が認められ,家族群をつくる場合も小さい。かんだかい鳴声は,しばしばこのなわばり宣言に使われる。草食性で,昼夜とも活動するが,昼間は好天のときよりも曇天あるいは霧の多い日によく見られる。夏から秋の初めにかけて草を刈り,岩の上に広げたり,木の枝に掛けて,日に当てて乾かした後,あちこちの岩の隙間などに大量に貯蔵する。貯蔵量は1ヵ所につき0.4~6kgという例が知られている。冬は冬眠せず,貯蔵した干草を食べて過ごす。
キタナキウサギO.hyperboreaは中国東北部,モンゴル,シベリア,サハリンなどに分布し,日本では亜種のエゾナキウサギO.h.yesoensisが北海道の日高山系などの山岳地帯に生息する。繁殖期は北海道では5~9月。1産3~4子を生む。
執筆者:今泉 吉晴
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報