日本大百科全書(ニッポニカ) 「ナベブタムシ」の意味・わかりやすい解説
ナベブタムシ
なべぶたむし / 鍋蓋虫
昆虫綱半翅(はんし)目異翅亜目コバンムシ科Naucoridaeナベブタムシ亜科Aphelocheirinaeの昆虫の総称、またはそのなかの一種。体長6~10ミリ、体は円形から楕円(だえん)形で扁平(へんぺい)。口吻(こうふん)が長く、中脚まで達し、触角も長く、背面からその先端部を認められ、脚(あし)の跗節(ふせつ)は可動性であるなどの点でコバンムシ類と区別される。雄生殖節は左右不相称。はねは普通短く、半円形で板状であるが、まれに長三角形で長い(長翅型)ことがある。成虫、幼虫とももっとも水中生活に適応し、特殊な呼吸方法で水中の酸素を利用する。普通、流水中にすみ、ときに急流中にもみられる。トビケラ幼虫などの水生昆虫類を捕食する。アメリカ大陸以外の世界各地に分布し、二十数種が知られる。
ナベブタムシAphelocheirus vittatusは、体長約9ミリ。体は円形で扁平、黄褐色で、暗褐色ないし黒褐色の斑紋(はんもん)をもつ。はねは半円形で短いが、まれに長いものがある。後脚は遊泳脚となり、とくに脛節(けいせつ)と跗節は長く、内側には長毛が密生する。ときに頭部中央以外が黒褐色となる黒化個体がみられる。日本特産種で、本州、四国、九州の渓流にすみ、底が砂質の所に多い。ほかに、前胸側方が強く突出するトゲナベブタムシA. nawai(本州から九州、朝鮮半島)、体がやや小さく、全体が黒いカワムラナベブタムシA. kawamurai(琵琶(びわ)湖疎水)が知られる。
[林 正美]