改訂新版 世界大百科事典 「ニワシドリ」の意味・わかりやすい解説
ニワシドリ (庭師鳥)
bowerbird
スズメ目ニワシドリ科Ptilonorhynchidaeの鳥の総称。アズマヤドリ(亭鳥)ともいう。この科は8属17種からなり,ニューギニアとその近隣の島々およびオーストラリアに分布している。大部分の種は,繁殖期に手のこんだ構築物を地上につくり,雄はそこでディスプレーを行って雌を引き寄せ,交尾をする特異な生態がある。ニワシドリの名は,この特殊な構築物をつくる生態によっている。
全長23~38cm,およそツグミ大からカケス大の大きさがある。羽色は種によってさまざまで,黄色,橙色,緑色,灰色,紫黒色などをとりまぜたはでな色のものと,全体に灰褐色やオリーブ緑色のじみなものとがある。また,前者はふつう雌雄異色で,雌は雄ほどはでではない。種によっては冠羽や飾羽がよく発達している。比較的乾燥した疎林あるいは熱帯降雨林にすみ,どの種もおもに漿果(しようか)類を食べている。非繁殖期には,数羽から数十羽,多い場合には100羽以上の群れになる。幼鳥と雌だけの群れをつくる種もある。この科の解剖学上の特徴はフウチョウ科に近いので,学者によってはニワシドリ類をフウチョウ科に入れることもある。
8属17種のニワシドリ科の鳥を特異な構築物に注目してみると,次のような段階に分けられる。
(1)もっとも原始的な段階と思われるのはネコドリ属Ailuroedus(2種,英名catbird)で,羽色は雌雄同色。構築物はつくらず一夫一妻制で繁殖し,雄も育雛(いくすう)にあたる。しかし,ときには雄が林床上に新しい木の葉を数枚集め,そこに雌を引きつける行動が観察されている。次にハバシニワシドリScenopoeetes dentirostris(1属1種,くちばしの先端部に切れ込みが2ヵ所あるのが特徴。英名はtooth-billed bowerbird)では,数羽の雄が集まり,各雄は林床上の枯葉や小枝をかたづけ,特異なくちばしで新しい木の葉をちぎってきてそこに敷いて固有の場所を占めてさえずり,雌をそこに引きつけて1繁殖期に数羽の雌と交尾する。雌はそこからかなり離れたところの樹上に巣をつくり,抱卵,育雛は雌だけが行う。これと類似の繁殖行動はサンフォードニワシドリArchboldia papuensis(1属1種)にも知られている。
(2)第2の段階はカンムリニワシドリ属Amblyornisと1属1種のオウゴンニワシドリPrionodura newtonianaにみられるもので,各雄が林床上の垂直に立っている若木を利用し,その若木のまわりに草木の枯葉や小枝,蘚類(せんるい),地衣類などを編み合わせたり,これらの材料を唾液に混ぜて付着して,あずまやのような形のさまざまな構築物をつくる。この構築物の高さは1~3m程度で,構築物の形や用いる若木の数は1本であったり2本であったり,種によって異なっている。また,この構築物の近くに花や甲虫類や貝殻などよく目だつ色彩のさまざまな小さな物品を集めてきて敷きちらす種もある。各雄はこの構築物に雌を引きつけ,1繁殖中に数羽の雌と交尾する。雌はそこから離れたところにある巣に産卵し,雌だけが抱卵,育雛にあたる。
(3)第3のグループにまとめられるのはフウチョウモドキ属Sericulus(3種),1属1種のアオアズマヤドリPtilonorhynchus violaceus,オオニワシドリ属Chlamyderaである。これらの種の雄は林床上を整理して,枯木の小枝や葉の茎を集めてきて,平行に並んだ2列の柴垣状の構築物をつくる。この構築物は種によって形や長さも異なるが,2列の垣根の間隔は,それぞれの種の1羽か2羽がやっと通れるくらいにつくられ,また,その垣根の出入口にさまざまな目だつ色彩の物品を集めて飾りたてる。垣根の高さと長さは,種によって異なるが,高さも長さもだいたい1m以内である。さらに,種によっては漿果をかみくだいたり,木の葉をかみくだいて近くのどこかから木炭質を含ませてきて,垣根の内壁に塗りつけて飾りたてる。各雄はこの構築物に雌を引きつけ,1繁殖期に数羽の雌と交尾を行う。雌はそこから離れたところに営巣し,抱卵,育雛を行う。
(2)と(3)に分類した種では,林の中のある区域内に数羽の雄が集まって,各雄が構築物をつくる種が多く,また, 種によってはおそらく同じ雄がその構築物を年々補修して使っている。交尾はたいがいこの構築物の内部で行われ,各雄は1繁殖中に次々と数羽の雌と交尾を行っている。どの種の巣も,これらの構築物から離れたところにつくられ,その巣はおそらく雌だけがつくると推定されている。巣は一般によく繁茂した樹上につくられ,わん形の比較的単純な形をしている。産卵数は多い種で1腹3卵,1腹1~2個の卵を産む種が多い。このようにニワシドリ科の鳥類はきわめて興味深い生態を示すグループである。
執筆者:安部 直哉
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報