(読み)ひな

精選版 日本国語大辞典 「雛」の意味・読み・例文・類語

ひな【雛】

〘名〙
孵化して間もない鳥の子。ひよこひなどり。
書紀(720)持統六年五月(寛文版訓)「赤烏の鶵(ヒナ)二双献れり」
② 女子などの玩具にする小さい人形。紙・土などで作り、多くは衣服を着せる。平安時代には立ち雛であったが、室町時代にすわり雛となり、近世中期以後に今日のような雛人形が作られるようになった。近世では、多く三月三日の雛祭に飾られる。雛人形。古くは「ひいな」ということが多い。《季・春》
※宇津保(970‐999頃)蔵開下「車どもを『ひなにねの日せさせ給へとてゐて参りつる』とて奉り給へば」
※俳諧・猿蓑(1691)四「振舞や下座になをる去年の雛〈去来〉」
③ 「ひなまつり(雛祭)」の略。
※雑俳・柳多留‐七(1772)「ひなの酒みんなのまれて泣て居る」
④ 他の語の上に付けて接頭語的に用い、小さい、愛らしいなどの意を表わす。「雛形」「雛桔梗」など。
※言経卿記‐天正一五年(1587)正月一七日「西御方より、やや方へひなこま給了」
[語誌](1)語形として「ひいな」と「ひな」があるが、「ひいな」が人形の意に限定されているのに対し、「ひな」にはひよこ、小さいなどの意もある。②の挙例「宇津保」は「ひいな」「ひひな」「ひゐな」などの本文を持つ諸本もあり、信頼性を欠くので、中古においては「ひいな」「ひな」で意味が分化していたことも考えられる。「ひいな」はその後衰退してゆくが、それに伴って近世には「ひな」が人形の意も表わすようになる。
(2)「ひなにんぎょう」の名称も近世に生まれたものであるが、「ひなあそび」「ひなあわせ」も三月の節句の雛祭の遊びをさすようになり、「ひなのひ」「ひなのま」のように、「ひな」が同日行事をさすようにもなる。

ひよっ‐こ【雛】

〘名〙 (「ひよこ(雛)」の変化した語)
※思出の記(1900‐01)〈徳富蘆花〉三「重なる家に雛(ヒヨ)っ子を二三羽づつ配ったが」
人情本・明烏後正夢(1821‐24)四「今歳はちっと新しく、商売がへの作者の雛鳥(ヒヨッコ)
※咄本・都鄙談語(1773)鳥類「これ、雛(ヒヨッコ)と、子共をよぶ」

ひよ‐こ【雛】

〘名〙
① 鳥の子。ひなどり。ひよっこ。特に、鶏のひな。
※玉塵抄(1563)一六「母の鳥がひよこを引つれてあるくことぞ」
② まだ一人前でない者。乳臭い者。ひよっこ。
洒落本・禁現大福帳(1755)四「匋(ののしる)を見れば呼出し買の鷇(ヒヨコ)なり」
③ 禿(かむろ)のこと。

ひいな ひひな【雛】

〘名〙 紙や木などでこしらえ、着物を着せたりする小型の人形で、女児の玩具。また、雛祭に飾る人形。ひな。雛人形。《季・春》
※源氏(1001‐14頃)若紫「ひゐななど、わざと屋ども造りつづけて」
[語誌]→「ひな(雛)」の語誌

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デジタル大辞泉 「雛」の意味・読み・例文・類語

ひな【×雛】

[名]
卵からかえって最初の羽が生えそろうまでの鳥。また、親からえさをもらっている時期の鳥。ひよこ。ひなどり。「がかえる」
雛人形。ひいな。「おさま」 春》「草の戸も住み替はる代ぞ―の家/芭蕉
[接頭]名詞に付いて、小さい、愛らしい、などの意を表す。「形」「菊」
[類語]野鳥水鳥水禽海鳥家禽飼い鳥渡り鳥候鳥夏鳥冬鳥漂鳥留鳥旅鳥迷鳥禁鳥保護鳥益鳥害鳥雄鶏雌鳥小鳥猛禽鳴禽珍鳥始祖鳥

ひよ‐こ【×雛】

卵からかえって間のない鳥。特に、鶏のひな。ひよっこ。
まだ一人前でない者。幼稚・未熟な者。ひよっこ。「のくせに生意気な口をきくな」
[類語](1にわとりとり雄鶏雌鳥雛鳥若鶏地鶏尾長鶏長尾鶏チャボ軍鶏シャモ東天紅一番鶏ブロイラーコーチン白色レグホン/(2子供青二才豎子じゅし小僧こぞっ子はな垂らし世間知らずねんね

すう【雛】[漢字項目]

人名用漢字] [音]スウ(慣) [訓]ひな ひいな
〈スウ〉
鳥の子。ひな。「育雛
子供。まだ一人前でない人。「雛妓すうぎ鳳雛ほうすう
〈ひな(びな)〉「雛形雛鳥女雛

ひいな〔ひひな〕【×雛】

紙や布で作った小形の人形。古く女児の玩具としたもの。また、ひな祭りに飾る人形。ひな人形。ひな。 春》

ひよっ‐こ【×雛】

ひよこ」に同じ。「のくせにでしゃばるな」

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「雛」の意味・わかりやすい解説


ひな

鳥の成長の最初の段階をいう。鳥学上は、卵から孵化(ふか)して最初の正羽(せいう)(その羽衣(うい)を幼羽という)が生えそろうまでの間の段階を雛といい、それ以後、成鳥に達するまでの段階を幼鳥という。しかし一般には、親鳥の世話を受けている状態のものを雛とよぶことが多く、シジュウカラなどスズメ目の幼鳥が巣立ちして、まだ十分に飛べず親鳥から餌(えさ)をもらっている段階のもの(鳥学では幼鳥)を巣立ち雛とよんだりする。孵化直後の雛の外見は種によってさまざまで、目があいており、初毛(綿毛状であるが、伸びると幼羽の正羽となる)が生えていて、1日か2日のうちに巣を離れてしまうものを早成性の雛、目は閉じていて、初毛がまったく、あるいはわずかしか生えていず、巣立ちまでに日数のかかるものを晩成性の雛という。スズメ目の鳥はすべて晩成性である。早成性の鳥には、孵化直後に巣を出てしまい、親の世話をまったく受けないキジ目ツカツクリ科、親について行動するが、自分で食物を探すカモ類やシギ・チドリ類、親に食物を教えてもらうキジ科、親から餌をもらうカイツブリ科やクイナ科がある。早成性と晩成性の中間の型の鳥もあり、カモメ科は目があき初毛が生えていて歩くことができるが、巣に長い間とどまる。初毛に包まれているが樹上の巣に長くとどまる鳥に、目があいた状態で孵化するサギ科やタカ類、目が閉じたままで孵化するフクロウ科がある。初毛が伸びきった幼鳥は、成鳥とほぼ同じ運動能力をもつ。以後の成長にもさまざまな型がみられる。メジロやシジュウカラはその年の秋に最初の換羽をし、すぐに成鳥羽になってしまうが、秋の換羽は部分的で第1回基羽(きう)(第1回冬羽)となり、翌春の換羽で成鳥羽(第1回代羽(だいう)、第1回夏羽)となるオオルリ、最初の年には換羽をせずに翌年の春から秋にかけての換羽で成鳥羽となるオオタカ、完全な成鳥羽になるまでは5年以上もかかる大形のワシ類やアホウドリなどがある。最初の幼羽から、一つまたは二つ以上の羽衣を経て成鳥羽に達する場合、その中間の段階の鳥を若鳥ということがある。なお、ニワトリ、アヒルなどの家禽(かきん)の雛をとくに「ひよこ」という。

[竹下信雄]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「雛」の意味・わかりやすい解説


ひな

孵化してまもない鳥の子。ニワトリ,アヒルなど家禽の雛を特にひよこという。養鶏業では,雛とは孵化後産卵開始までの総称。孵化後まもない雛を初生雛といい,孵化後約4週齢までが幼雛,4~10週齢までが中雛,10週齢以後産卵開始時 (20~24週齢) までが大雛と区別され,それぞれ異なる飼養管理におかれる。

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