日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヌタウナギ」の意味・わかりやすい解説
ヌタウナギ
ぬたうなぎ / 沼田鰻
hag fish
ヌタウナギ綱ヌタウナギ目ヌタウナギ科Myxinidaeの魚類の総称、およびそのなかの1種。2006年(平成18)までMyxinidaeの魚類はメクラウナギ目メクラウナギ科に分類されていたが、差別的語を含むため、日本魚類学会が2007年1月に現在の標準和名に改名した。体はウナギ形をしているが無顎上綱に属し、ヤツメウナギ類とともに、4億年以前に出現した学術上興味ある脊椎(せきつい)動物である。目が皮下に埋没し、レンズや虹彩(こうさい)がなく、視神経も退化的である。口は裂孔状で4対のひげがあり、外に開く鰓孔(さいこう)は1対または6対である。体側の下部に1~2列に並んだ多数の粘液孔から悪臭のする粘液を出す。舌の前端の左右に2列の舌歯がある。尾びれ以外のひれがない。体は大きなもので80センチメートルぐらいになる。
夜行性であり、昼間は海底の泥の中に潜む習性がある。普通、ゆっくりと蛇行して泳ぐが、刺激を受けると体を「8」の字によじる。餌物(えもの)に付着すると、紐(ひも)を結んだような結節をつくる。腐肉に集まる習性があり、舌歯を餌物の体内に突き刺し、これを元の位置へ引っ込めるようにして肉や内臓をそぎ取る。魚類のほか、泥の中にすむ貝類、エビ・カニ類、多毛類なども食べる。漁網に入った動きの鈍い魚類、イカ類の皮膚に穴をあけたり、口や鰓孔から侵入して肉や内臓を食べ、また、このとき多くの粘液で網を損じるので漁業者に嫌われる。夏から秋にかけて産卵する。卵はどんぐり形を呈して大きく、1尾がはらむ卵の数は少なく、50個以下である。
太平洋、大西洋の深海に13種余りが知られている。日本には5種がいて、外鰓孔が6~8個のグループと、1個のグループとに大別できる。
和名ヌタウナギinshore hagfish/Eptatretus burgeriは6個の外鰓孔をもち、本州中部地方以南の日本各地、東シナ海、朝鮮半島南部などに分布する。10メートル以浅にも生息するので、イソメクラともいわれた。地方によってはアナゴともいう。体長60センチメートルぐらい。体は茶褐色。産卵期は8~10月。卵殻は長さ22ミリメートル、径9ミリメートル、多数の糸状突起が両極にある。1尾が抱く卵の数は20個前後。夏にやや美味である。このグループには本種のほかに深海性のクロヌタウナギEptatretus atamiとムラサキヌタウナギEptatretus okinoseanusがいるが、クロヌタウナギの外鰓孔は互いに接近して1列に並ばず、ムラサキヌタウナギの外鰓孔は1列に8個並ぶことで区別できる。
外鰓孔が1個のグループには、ホソヌタウナギ(旧和名メクラウナギ)Myxine garmaniとオキナホソヌタウナギ(旧和名オキナメクラ)Myxine paucidensがいる。ホソヌタウナギの舌歯の前列と後列の歯はそれぞれ12本またはそれ以下である。体色は青紫色。オキナホソヌタウナギは、体色はホソヌタウナギに似るが、舌歯の前列と後列の歯がそれぞれ6本と7本である。ホソヌタウナギ、オキナホソヌタウナギとも全長は50センチメートルぐらい。いずれも深海底に生息する希種で、生態は明らかでない。
[落合 明・尼岡邦夫]