日本大百科全書(ニッポニカ) 「ノストローモ」の意味・わかりやすい解説
ノストローモ
のすとろーも
Nostromo
イギリスの作家コンラッドの長編小説。1904年刊。舞台は南米の架空の小国コスタグアナ。グールドという人物が経営する銀鉱山があって、これを軸として物語が展開する。グールドは、物質的繁栄がこの国に進歩と安定をもたらすと信じて銀山の経営に努力してきたが、これは外国の資本家勢力を招き寄せる結果になり、国粋主義者による武装蜂起(ほうき)の原因ともなる。一方ではまた、夫婦間の愛情も冷えたものになってゆく。革命軍がこないうちに大量の銀を安全な場所に移すことになり、この大仕事は、人夫頭でノストローモとよばれている男にゆだねられる。彼は体力・精神力ともに超人的で、その誠実さは絶対信頼に足ると折紙をつけられた人物だったが、その彼とても、富の誘惑には抗しきれず、ついには堕落してゆく。このほかにも大ぜいの人物が登場するが、複雑な政治的状況に置かれたそれぞれの人間のドラマがみごとに描かれている。スケールの大きい、政治小説の傑作である。
[高見幸郎]
『上田勤・日高八郎訳『ノストローモ』(1966・筑摩書房)』