改訂新版 世界大百科事典 「バシルス」の意味・わかりやすい解説
バシルス
Bacillus
土壌,水,空気,食品などに広く分布している細菌の1属。バチルスともいう。グラム陽性,好気性の杆菌。運動するものは周鞭毛を有する。耐熱性の胞子を形成するのが特徴。胞子は卵形ないし円筒形で,胞子囊は膨れるものと膨れないものがある。デンプンやタンパク質を分解するものが多い。また脱窒能を有する菌種も知られている。枯草菌B.subtilisのアミラーゼ,プロテアーゼは工業的に生産されている。一方,セレウス菌B.cereusは食品の腐敗に関係し食中毒の原因菌となる。バシルス・チューリンゲンシスB.thuringiensisは細胞内に結晶性のタンパク質を生成し,これはチョウやガなど鱗翅(りんし)目の昆虫に特異的な毒性を示すので,これらの駆除に用いられている。炭疽(たんそ)菌B.anthracisはウシ,ヒツジなどの炭疽の原因菌で,R.コッホがこの細菌の純粋培養に成功し,その接種試験により動物を発病させた研究は,細菌と病気との関係をはじめて証明した研究として,細菌学史上有名である。バシルス・ステアロテルモフィルスB.stearothermophilusは缶詰のフラット・サワーflat sour(外観は正常だが内容物が酸敗)の原因菌で,60℃の高温にも生育し,ラケット形の胞子囊を形成する。
執筆者:駒形 和男
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報