プロテアーゼ(読み)ぷろてあーぜ(英語表記)protease

翻訳|protease

日本大百科全書(ニッポニカ) 「プロテアーゼ」の意味・わかりやすい解説

プロテアーゼ
ぷろてあーぜ
protease

タンパク質やペプチドペプチド結合CO-NHを加水分解(切断)する酵素の総称。タンパク分解酵素、タンパク質分解酵素ともいう。動植物や微生物の細胞内外に広く存在する。多くは分子量2万数千~4万の単純タンパク質であるが、亜鉛やカルシウムなどの金属イオンを伴う複合タンパク質のことも多い。また、分子量が10万前後あるいは30万前後のものもある。アミノ酸配列やX線結晶解析による立体構造が解明された酵素も多い。

[野村晃司]

分類

作用の仕方によりいくつかに分類できる。

(1)エキソペプチダーゼ ペプチドやタンパク質のN(アミノ基)末端またはC(カルボキシ基)末端から順次アミノ酸やジペプチドを切り離していく酵素。たとえば、ロイシンアミノペプチダーゼカルボキシペプチダーゼジペプチジルアミノペプチダーゼ、などがある。

(2)エンドペプチダーゼ タンパク質やペプチドの内部を切断する酵素。プロテイナーゼともいう。トリプシンキモトリプシンエラスターゼ、コラーゲナーゼ、など多数ある。

 さらにこれらは酵素の活性中心にある必須(ひっす)の触媒基により四つに分類できる。

(1)セリン酵素。(トリプシン、キモトリプシン、エラスターゼなど)
(2)チオールシステイン)酵素。チオール基はSH基のこと。(パパイン、カテプシンB、カルパインなど)
(3)アスパラギン酸酵素。以前は酸性酵素といわれた。(ペプシンA、キモシンなど)
(4)金属(メタロ)酵素。(サーモライシン、微生物コラーゲナーゼ、マトリックスメタロプロテアーゼ=MMPなど。ウニの孵化(ふか)酵素もMMPの仲間である)。メタロ酵素には亜鉛イオンZn2+やカルシウムイオンCa2+が多く使われている。

[野村晃司]

プロテアーゼの役割

プロテアーゼはタンパク質やペプチド内の特定のアミノ酸のそれぞれアミノ末端側、またはカルボキシ末端側のペプチド結合を切る(加水分解する)という性質がある。これを基質特異性という。たとえば、トリプシンは塩基性のアミノ酸、リジンとアルギニンカルボニル(C=O)側を切断し、キモトリプシンはフェニルアラニンやチロシンなどの芳香族アミノ酸やグルタミン酸のカルボニル側を切断する。エラスターゼはエラスチンのGly-X-(Glyはグリシン、Xは疎水性の脂肪族アミノ酸)が繰り返す配列の部分のGly-Xを切断する。サーモライシン(微生物由来の耐熱性プロテアーゼ)やコラーゲナーゼはメタロ酵素である。後者はコラーゲンのアミノ酸配列-Gly-Pro-X-Gly-Pro-Y-のX-Glyを切断する(Proはプロリン)。一方、哺乳(ほにゅう)類のコラーゲナーゼはコラーゲンの非常に限定的な部位、つまりN末端から全長の4分の1にあたる部位だけを切断する。

 プロテアーゼは、生物にとって不可欠のタンパク質をつくる材料であるアミノ酸を食物中のタンパク質の消化によって摂取するとき、逆に細胞内外で不要になったタンパク質を除去するとき、あるいは酵素をはじめ各種の生物活性をもつタンパク質やペプチドの前駆体から不要部分を切り離して活性化するときなどに重要な役割を果たしている。たとえば、胃液のペプシン、膵液(すいえき)のトリプシン、キモトリプシン、エラスターゼ、細胞内小器官リソゾームにある各種のカテプシン、血液凝固においてフィブリノゲンをフィブリンに活性化するトロンビンなどがある。また、タンパク質化学ではタンパク質を種々の大きさの断片にするために前記の酵素を利用しており、N末端またはC末端からアミノ酸配列を順次決定するときにもロイシンアミノペプチダーゼやカルボキシペプチダーゼを古くから利用している。

 1980年(昭和55)新たにみいだされた細胞内の「カルシウム依存性中性プロテアーゼ」が、日本の二つのグループから報告された。京都大学と東京大学で、京大グループはこれをカルパインcalpainと名づけたが、東大グループはcalcium-activated neutral protease(カルシウムで活性化される中性プロテアーゼ)、略してCANPと名づけた。現在は、京大グループのカルパインが国際的に通用している。チオール酵素の名前によく使われる○○パインの名称は果物のパパイヤに含まれるチオール酵素のパパインが発端であることから、このほうがわかりやすいからである。そのほかに、細胞内で合成されたタンパク質が細胞外に分泌されるときアミノ末端のシグナルペプチドを切り離すシグナルペプチダーゼがある。1985年には、プロテアソームproteasome(多機能タンパク質分解複合体)が報告され注目された。

 これらのプロテアーゼの活性を阻害する各種のインヒビター(タンパク質や小さなペプチド)も動植物や微生物によってつくられている。ダイズや卵白のインヒビターやα(アルファ)2-マクログロブリンなど、多種多様である。なお、豆類はプロテアーゼインヒビターを含んでいるので、生では食べないほうがよい。

[野村晃司]

栄養

ペプチドヒドラーゼともいい、エンドペプチダーゼとエキソペプチダーゼに分類される。エンドペプチダーゼはプロテイナーゼともよばれ、タンパク質を粗く大きく分解してペプチドを生成する酵素で、エキソペプチダーゼはタンパク質やペプチドのN末端あるいはC末端から順次アミノ酸を切り離していく。プロテアーゼは人体におけるタンパク質の消化吸収に役だつ。微生物や植物から得たプロテアーゼは小麦粉の品質改良、ビールの混濁防止、チーズの製造、食肉の軟化に用いられる。

[宮崎基嘉]

『日本生化学会編『続 生化学実験講座7 情報伝達と細胞応答(下)』(1986・東京化学同人)』『一島英治著『プロテアーゼと生命現象――酵素の不思議な働き』(1987・丸善)』『三浦謹一郎他編著『タンパク質工学――新しい物質生産の礎を築く』(1988・啓学出版)』『勝部幸輝他編『タンパク質2 構造と機能編』(1988・東京化学同人)』『三浦謹一郎他編『蛋白質の機能構造』(1990・丸善)』『日本生化学会編『新・生化学実験講座1 タンパク質(5) 酵素・その他の機能タンパク質』(1991・東京化学同人)』『広海啓太郎著『酵素反応』(1991・岩波書店)』『勝沼信彦著『細胞内タンパク質分解――機構・調節・病態』(1992・東京化学同人)』『大越基弘著『癌の抗酵素療法――プロテアーゼインヒビターと癌の制御』(1993・篠原出版新社)』『鈴木紘一編『プロテアーゼと生体機能――分子から病態まで』(1993・東京化学同人)』『小川道雄編『消化器病とプロテアーゼ・インヒビター』(1993・へるす出版)』『魚住武司他編『酵素工学』(1993・丸善)』『鶴大典・船津勝編『蛋白質分解酵素』1・2(1993・学会出版センター)』『今関英雅・柴岡弘郎編『植物ホルモンと細胞の形』(1998・学会出版センター)』『日本水産学会監修、西田清義編『魚貝類筋肉タンパク質――その構造と機能』(1999・恒星社厚生閣)』『小野真弓・桑野信彦著『血管新生とがんの生物学』(2000・共立出版)』『鈴木紘一他編『タンパク質分解――分子機構と細胞機能』(2000・シュプリンガー・フェアラーク東京)』『日本水産学会監修、関伸夫他編『かまぼこの足形成――魚介肉構成タンパク質と酵素の役割』(2001・恒星社厚生閣)』『渡辺公綱他編『プロテインエンジニアリングの応用』(2002・シーエムシー出版)』『谷口直之編『ポストゲノム時代の糖鎖生物学がわかる』(2002・羊土社)』

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