日本大百科全書(ニッポニカ) 「バレシヌシ」の意味・わかりやすい解説
バレシヌシ
ばれしぬし
Françoise Barré-Sinoussi
(1947― )
フランス生まれ。パリのパスツール研究所で博士号を取得。同研究所で1983年にエイズウイルス(HIV:Human Immunodeficiency Virus)を発見した功績により、2008年、共同研究者のモンタニエとともにノーベル医学生理学賞を受賞した。
免疫細胞の機能を低下させて死に至らしめる原因不明の感染症が、欧米、アフリカで1970年代後半から流行し、健康体の人であれば感染しても発病しない皮膚癌や肺炎などによって多くの死者を出した。その後の研究によって、血液や体液を介して感染する病気とわかり、後天性免疫不全症候群(
エイズ、AIDS:Acquired Immune Deficiency Syndrome)と命名された。
バレシヌシらは、エイズ患者の体内からウイルスを分離し、このウイルスが感染症を発症させる原因であることをつきとめ、HIVと命名した。この原因ウイルスの特定によって、不治の病として恐れられたエイズの治療方法が次々と開発された。病状をコントロールすることで死なない病気となってきたが、エイズによる死者は全世界で累計約2500万人(2008年時点)と推計されている。
HIVの発見をめぐっては、受賞者であるフランスの2人の研究者と、アメリカ国立衛生研究所(NIH:National Institutes of Health)の研究者、ロバート・ギャロRobert Charles Gallo(1937― )による先陣の功争いが険悪になり、学界でも大きな論争となった。その後、フランス・アメリカ両国の大統領が話し合い、政治的な配慮によって、仏米2か国の研究者が3人とも共同発見者とされた。しかしノーベル賞の授与によって、この論争はフランスの2人の研究者が最初の発見者と決着した。
[馬場錬成]