改訂新版 世界大百科事典 「ヒマラヤスギ」の意味・わかりやすい解説
ヒマラヤスギ
Himalayan cedar
Indian cedar
Cedrus deodara (Roxb.) Loud.
ヒマラヤシーダーともいう。樹容の端正なマツ科の常緑高木で,世界で最も優れた庭園樹の一つとされる。高さ30~50mになり,太い枝を長く張って広円錐形の樹形をなす。幹は径1~3mにもなり,樹皮は灰褐色でこまかく割れる。葉は針形で長さ2~5cm。枝の主軸では螺生(らせい),短枝上では20~50本が束生する。10~11月に雄花と雌球花を別々の短枝端に直立させ,雄花は黄褐色円柱形で長さ2~5cm,雌球花は淡緑色で小さい。翌年の同時期に長さ6~13cmの長卵形の球果ができ,果鱗と種子が落ちたあと果軸だけが残る。種子に翼がある。辺材は白色,心材は黄褐色でやや芳香があり,自生地では建築・器具・造船材などに用いられる。ヒマラヤ北西部からアフガニスタンまでの標高1100~4000mの地に分布し,300年以上も生きる。また植林もされている。日本には1879年ころに入り,以来ほうぼうに植えられた。シーダーcedarというと,もともとはこの仲間のことをいい,レバノン,シリアなど西アジアに産するレバノンシーダー(レバノンスギ)C.libani Loud.(英名cedar of Lebanon)や,北アフリカ西部に分布するアトラスシーダーC.atlantica Loud.(英名Atlas cedar)がある。
執筆者:濱谷 稔夫
シンボリズム
古来神聖な木とされており,エジプトでは油や木材がミイラの保存に用いられたし,ヒマラヤでは寺院などに植えられる。
レバノンの林に生えるレバノンシーダーの最も大きな12本の古木は神聖視され,毎年8月6日の御変容の祝日にはアルメニア教会,東方正教会,モルモン教の信者がこの木を目ざして巡礼する。ソロモンの神殿はこの地のレバノンシーダーで建てられたといわれ,またイスラム教徒もこれを聖者の化身とみなした。シーダーの仲間は香りがよく,防腐・防虫効果があるというので,中世ヨーロッパではこれで嫁入り用品箱hope chestを作った。大プリニウスの《博物誌》には,シーダーから得られる樹液を塗れば死体を保存でき,また逆に生きた人間の体を腐らせるとある。古代エジプトのミイラも腐食防止にこれが塗られていた。また一般に保護者を示す隠喩として用いられ,イエス・キリストやマリアの慈悲の象徴にもなっている。古代アッシリアでは,揺すれば揺するほど大地にしっかり根を張るので,力の象徴とされた。したがって,花言葉もシーダーは〈力〉,レバノンシーダーは〈不滅〉。
執筆者:荒俣 宏
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報