アルメニア教会(読み)アルメニアきょうかい

改訂新版 世界大百科事典 「アルメニア教会」の意味・わかりやすい解説

アルメニア教会 (アルメニアきょうかい)

アルメニア共和国を中心に,西アジア・アメリカ合衆国などに拡大したキリスト教会。教義上は単性論派に属する。アルメニアは4世紀初頭,世界で初めてキリスト教を国家宗教として受容した。カトリコスと呼ばれる教会首長の座はエレバン西方20kmのエチミアジン(1945年まではバガルシャパトと称した)に置かれ,4世紀末までカッパドキアのカエサレア主教の管轄下にあった。5世紀初頭メスロプ・マシトツアルメニア文字考案,さらに聖書のアルメニア語訳を完成させた。教会はローマ帝国内の教義論争には加わらなかったが,6世紀初頭には単性論を受けいれた。イスラム軍の侵入後,国内政情の不安定から教会の勢力は衰えた。セルジューク朝支配の時代に多数のアルメニア人が小アジアのキリキアに移住し,アルメニア王国を築いたが,その時代に十字軍のラテン公国と接触し,ローマ教会との合同が取りきめられた。しかし合同反対派の勢力も強く,1375年教会は分裂した。現在,合同教会を除いたアルメニア教会にはカトリコス2名と総主教2名がそれぞれ独立している。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「アルメニア教会」の意味・わかりやすい解説

アルメニア教会
あるめにあきょうかい

西南アジアのアルメニア地方に広まったキリスト教教会の一派。アルメニアにおけるキリスト教伝道は2世紀に始まる。3世紀末には、王家の出身であるグレゴリウスが、当時の国王ティリダテス3世をはじめ多くの国民を改宗させた。このため、彼は「啓蒙(けいもう)者グレゴリウス」「アルメニアの使徒」とよばれた。おそらくアルメニアはキリスト教を公式に採用した最初の国といえよう。451年のキリスト両性論を正統としたカルケドン公会議には自国戦乱のため参加しなかったが、当教会は6世紀以降、反カルケドンの立場をとって、今日もなおその大半はキリスト単性論を受け入れている。ただし、同じ立場をとる他教会との交流はないといわれる。その後は、ペルシアイスラム教徒の侵入をはじめ、近世以降はトルコ人やロシア人による迫害の歴史をたどったが、教会を基盤とした民族的結合は固い。彼らの教理は東方正教会と似ており、礼拝は「バシリオス典礼」に基づいている。聖書の翻訳(アルメニア語聖書)も4~5世紀メスロプを中心に完成。また、主の生誕を公現日(こうげんび)(顕現日ともいう。1月6日)を中心に祝っているのも当教会の特色の一つである。

[菊地栄三]

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百科事典マイペディア 「アルメニア教会」の意味・わかりやすい解説

アルメニア教会【アルメニアきょうかい】

キリスト単性論を支持するアルメニア人の教会。アルメニアにキリスト教をもたらしたグレゴリオス〔240ころ-332〕にちなみ,グレゴリオス派ともいい,首長はカトリコスと呼ばれる。アルメニアは4世紀に,世界で初めて国としてキリスト教を受け入れた。11世紀にセルジューク朝に征服されるとアナトリアへの移民が起き,中東各地にも広がった。分派としてカトリックとの合同によるアルメニア・カトリック教会がある。
→関連項目アルメニア(国)アルメニア(地方)エレバン

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世界大百科事典(旧版)内のアルメニア教会の言及

【キリスト教】より

…帝国外の諸民族,諸国家に対する布教政策は一貫性を欠き,また常時組織的に行われたわけでもない。6世紀にはヌビアへの布教が行われ,単性論に走ったアルメニア教会の引戻し工作が進められた。9~10世紀には帝国の周辺に定住した異民族,なかでもスラブ族への布教が試みられた。…

【グレゴリオス[アルメニアの]】より

…かくしてアルメニアは,4世紀初頭に世界で初めてキリスト教を国教として受容した。グレゴリオスは再びカッパドキアに行き,カエサレア主教によって主教に叙階され,帰国後,国王によってアルメニア教会の首長カトリコスに任命された。アガタンゲロスによる伝記が残されている。…

【ソビエト連邦】より

…ロシア正教はロシア人,ウクライナ人,白ロシア人の間だけでなく,モルダビア(モルドバ)人,チュバシ人,ウドムルト人,モルドバ(モルドビン)人,マリ人,コミ人,ヤクート人などの間にも広く普及していた。 同じ東方正教会でもグルジアには別個のグルジア正教会があり,アルメニアには東方諸教会系のアルメニア教会がある。カトリックはリトアニアに,ルター派はエストニアとラトビアに多かった。…

※「アルメニア教会」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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