日本大百科全書(ニッポニカ) 「モルモン教」の意味・わかりやすい解説
モルモン教
もるもんきょう
Mormons
Mormonism
1830年にアメリカ合衆国に設立されたプロテスタントの一派。モルモン教として知られる宗教運動にはいくつかの教派があり、そのすべての起源は創唱者ジョセフ・スミスにさかのぼることができる。スミスは天使モロニイから黄金の板について啓示を受けたとし、これに書かれていた文字を翻訳、1830年『モルモン経(けい)』The Book of Mormonを出版した。同年ニューヨーク州の法律のもとで正式に教会The Church of Christが設立され、1838年には名称を「末日聖徒イエス・キリスト教会」The Church of Jesus Christ of Latter-day Saintsに変更した。この教派はのちにユタ州ソルト・レーク・シティに本部をもつ最大のグループとなるが、モルモン教の流れに属する2番目に大きい教派は、ミズーリ州インディペンデンスに本部をもつ「末日聖徒再編教会」The Reorganized Church of Jesus Christ of Latter-Day Saintsである。
初期には一夫多妻(1890年に公式の宣言によって廃止)などの主張が迫害を受け、ニューヨーク州からオハイオ州カートランド、ミズーリ州インディペンデンス、イリノイ州と各地を転々とした。イリノイ州ナウボーで、スミスのもつ強大な権力が人々の反感を買い、彼は牢獄(ろうごく)に監禁された後、暴徒に殺害された。後継者ブリガム・ヤング(1801―77)がリーダーとなり、安住の地を求めてロッキー山脈を越えて最終目的地ソルト・レークの大渓谷に移住、市を建設して、大家族を中心に農業、産業をおこし、一円をユタ州にまで発展させた。
スミスは人間の運命の決定にあたって人間の自由の役割を強調したが、これはメソジスト、バプティストに共通する点であり、そのほか千年王国(至福千年)説、信仰復興運動、禁酒運動などの時代の風潮に対応して多様な教義を包括している。
モルモン教の教義のなかで重要なものとして、「初代教会へ戻れ」という復古主義と再臨待望があげられる。1990年ごろから、バプティスト派、カトリック教会、ディサイプル、ルター派教会(ルーテル派教会)、メソジスト派とともにアメリカにおけるキリスト教の六つの主要グループの一つといわれている。1995年時点で、アメリカのモルモン教の信徒数は、末日聖徒再編教会などを含めると500万人を越え、人口の約2%を占めている。聖書を聖典の一つにしているが、キリスト教ではなく、「新しい宗教」とする説もある。
[野村文子]
『生駒孝彰著『アメリカ生れのキリスト教』(1981・旺史社)』▽『高山真知子著「アメリカ史の謎――モルモン教における叙事詩の発生と一夫多妻制度の意味」(井門富二夫編『多元社会の宗教集団』所収・1992・大明堂)』▽『Klaus J. HansenMormonism and the American Experience(1981, University of Chicago Press)』▽『Jan ShippsMormonism――The Story of a New Religious Tradition(1985, Illinois University Press)』