改訂新版 世界大百科事典 「ビトラック」の意味・わかりやすい解説
ビトラック
Roger Vitrac
生没年:1899-1952
フランスの詩人,劇作家。雑誌《アバンチュール》や《文学》にダダ風な戯曲を発表した後,1923年挑発的な戯曲《愛の神秘》を書き,27年アントナン・アルトーとともに創立したアルフレッド・ジャリ劇場の第1回公演の演目として初演した。代表作《ビクトル,または権力の座についた子どもたち》も翌年同劇場の第4回公演として上演された。一見保守的なブールバール劇の枠組みの中に,大人以上の背丈と知能をもつ9歳の子どもという主人公の扱いが,ブルジョア家庭を愚弄するジャリ流の嘲弄の演劇であり,アナーキーな笑いを爆発させる。作者はほかに《トラファルガルの一撃》(1934),《人間狼》(1935作,40年初演)さらに第2次世界大戦後も《親父のサーベル》(1950)などを書き続けるが,初期作品のもつブラック・ユーモアと不条理の衝撃力は示しえずに一生を終わった。
執筆者:利光 哲夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報