改訂新版 世界大百科事典 「ピクロトキシン」の意味・わかりやすい解説
ピクロトキシン
picrotoxin
インド,東南アジア方面に分布するツヅラフジ科の低木Anamirta cocculusの種子中に含まれる痙攣(けいれん)毒で,ピクロトキシニンpicrotoxininとピクロチンpicrotin(これ自身に毒性はない)の各1分子からなる分子化合物。
中枢神経系に強い刺激作用を有し,中枢興奮薬,痙攣毒の代表的薬物。ピクロトキシンによる痙攣は間代性痙攣で,作用部位は中枢神経全域にわたるが,とくに脳幹に強く作用する。作用機序は中枢神経におけるシナプス前抑制と考えられているが,その詳細な点は現在なお興味ある研究課題である。この物質は消化管から容易に吸収される。毒性は強力で,ヒトにおいては20mgの摂取で中毒症状を起こすが致死量は明らかでない。呼吸興奮作用があるところから,かつてバルビツレート中毒の治療に用いられたことがある。この毒物を含有する植物の自生地域の現地人は,砕いた果実を池や川に投げ入れて魚を捕るという。
執筆者:渡辺 和夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報