異なる分子が一定の分子数比で付加して生じる化合物で,分子間化合物ともいう。多くの場合に成分分子とは異なる性質を示す。広い意味では,CaCl2・4CH3OH,C6H5CH3・SbCl3や種々のクラスレート化合物なども含めるが,最も重要なのは電荷移動錯体と称される一群の化合物で,普通に分子化合物という場合はこの一群を指す。古くから知られている例はキンヒドロン(p-ベンゾキノンとハイドロキノンの1:1の化合物)やナフタレン,アントラセンなど多環式芳香族化合物とピクリン酸の間に生じるピクレートなどである。
これらは成分分子より長波長の光を吸収し,特有の色を呈する。この長波長の新しい吸収帯の出現はR.S.マリケンの電荷移動理論により量子論的に説明され(1950),分子間の結合力の主要な部分は,成分分子が接触した状態と一方から他方へ電子が1個移って共有結合した状態の間の共鳴によって理解できることがわかった。その後,種々の分光法,物性測定による研究が進められ,理論を実証するとともに多数の錯体がつくられている。なかでも,電子を受け取る成分(電子受容体)となるテトラシアノパラキノジメタンおよび電子を与える成分(電子供与体)となるテトラチアフルバレンの種々の錯体は,電気的,磁気的な性質に従来の有機化合物ではみられない特徴を示すのでよく研究されている。ちなみに,この両者から生じる分子化合物は55K以上の温度で金属的な電気伝導を示す。
執筆者:木下 實
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単独で安定に存在しうる分子A,Bが互いに結合してできる化合物のうちで,比較的簡単にもとの成分に解離できるものをいう.A・BまたはA・nBのような組成をもち,AとBとが同一化合物の場合もある.付加化合物の一種であるが,不飽和結合に対する付加反応による生成物や,アンモニウム塩,そのほかの安定なオニウム化合物は分子化合物とはよばない.例としては,電荷移動力による電荷移動錯体,水素結合によるフッ化水素の二量体,デオキシコール酸と種々の有機化合物が結合してできたコレイン酸,また塩類の水和物,溶媒和物などがある.
出典 森北出版「化学辞典(第2版)」化学辞典 第2版について 情報
古典的化学結合論によってはそれぞれ単独に分子として考えられる2種以上の化合物あるいは単体が一定の組成比で複合し、一つの化合物となるものの総称。化学結合論の発展にしたがってそれらの分子間の相互作用、結合様式が明らかになるにつれて、水和物を含む溶媒和物、錯体、分子錯体、電荷移動錯体、包接化合物などに分類されるようになった。狭義の分子化合物は分子間化合物intermolecular compoundともよばれるが、分子間にはファン・デル・ワールス力あるいは水素結合力などが作用していることが多い。導電性有機化合物や機能性材料として、特殊な性質をもつ分子を組み合わせた分子化合物の設計合成も行われている。
[岩本振武]
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