日本大百科全書(ニッポニカ) 「フィレモン」の意味・わかりやすい解説
フィレモン
ふぃれもん
Philemon
ギリシア神話に出てくる貧しい農夫。彼は妻のバウキスとともにフリギアに住んでいた。あるとき人間を試すため、ゼウスとヘルメスは人の姿に身をやつして旅をしていた。そしてこの地方にもやってきたが、だれもこの旅人を一晩泊めてやろうとはしなかった。ただフィレモン老夫婦だけが親切に迎え入れ、貧しいながらも心を込めて2人をもてなした。この地方の人間たちの非道を怒ったゼウスは大洪水を起こしたが、フィレモン夫婦だけは助けてやり、その貧弱な住居を壮大な神殿に変えてやった。老夫婦はゼウスに、2人をその神殿の神官にしてくれるように、また死ぬときはかならず同時に死ねるようにと願い、聞き届けられた。2人は平和にその神殿を守り、やがて願いどおり同時に死んで、その神殿の前の連理の木に化したという。この物語は、オウィディウスの『変身物語』によって有名である。
[伊藤照夫]