フルベ族(読み)フルベぞく(その他表記)Fulbe

改訂新版 世界大百科事典 「フルベ族」の意味・わかりやすい解説

フルベ族 (フルベぞく)
Fulbe

西アフリカに広範囲に居住する民族。自称はプロPullo(単数。複数がフルベ)で,他称として,マンデ系の人々によるフラ族Fula,ハウサ族によるフラニ族Fulani,アラブ系の人々によるフェラタ族Fellataなどがある。言語の自称はプラール語Pulaar,フルデ語Fulde,フルフルデ語Fulfulde,フルベーレ語Fulbeereなどといい,ニジェール・コンゴ大語群の大西洋語群に属し,多くの名詞クラスをもつ。ヨーロッパ語では言語と民族名称が混同されていて,フルベ,フラニ,プールPeul,フルFulなどと呼ばれている。そのため日本でもフラニ族,フラニー族,プール族などとも呼ばれてきた。フルベ族はもともとセネガル川流域に住んでいたが,今日,西アフリカの大西洋岸からサハラ砂漠の南縁のサヘル地帯を東西に横切り,チャド湖南岸を通ってナイル川に至るまでの地域に分布している。その人口は800万とも1000万ともいわれている。

 生業形態は,観念的には牧畜志向であるが大部分は定着の半農半牧を営み,少数ながら遊牧を行うものもある。家畜は牛が主であるが,羊,ヤギなども飼う。農作物モロコシトウジンビエなどがある。社会制度は父系拡大家族が社会の基本的な生活単位で,婚姻は一夫多妻制をとり,婚姻後の移住様式は夫方居住である。またフルベ族のあいだには,社会的地位の異なる支配民と被支配民の別がある。大部分の人は熱心なイスラム教徒で,かつてウスマン・ダン・フォディオのように聖戦ジハード)をおこしイスラムを西アフリカに広めた。豊富な口承文学の伝統をもち,ギニアのフータ・ジャロン地域などには,アジャミヤと呼ばれるアラビア文字を使って書かれた文学がある。
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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「フルベ族」の意味・わかりやすい解説

フルベ族
フルベぞく
Fulbe

フラニ族 Fulaniともいう。中央アフリカ共和国からセネガルにいたるサバナ地帯の住民。人口は 1500万人をこえると推定される。言語はニジェール=コンゴ語派に属するフルフルデ語を話す。本来は牛牧民であったが,経済の変化とともに,半農半牧の定住民となる者が増加した。社会構造は遊牧フルベは近隣のハウサ族や定住フルベと比べてきわだって平等主義をとっている。一夫多妻制である。形質的には赤銅色の皮膚,細い鉤鼻,薄い唇,細い体型などの非黒人的特徴を示すが,ニグロイドとの混血もかなり進んでいる。歴史的にはナイル川流域からサハラ南縁に沿って西方に移動した民族であると考える学者もいる。早くからイスラム教徒となり,西アフリカのイスラム教の伝播や諸王国の形成に大きな役割を果した。

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世界大百科事典(旧版)内のフルベ族の言及

【アフリカ】より

…ロバ,ヒツジ,ヤギ,ニワトリ,西アフリカ原産のホロホロチョウなど小家畜・家禽の飼育も行われていた。小型の牛の一種がオートボルタ南部からコートジボアール,ガーナの北部にかけての地方の一部で飼育されているほか,大家畜としては北アフリカからもたらされた馬が王侯貴族の騎乗用にかなり古くから飼われており,またセネガル地方から最近数百年間にサバンナ地帯を東へ移動,拡散した牛牧民フルベ族が,ゼビュー(コブウシ)とおそらくは地中海産の牛との混血と思われる牛を飼育しているが,農耕民には大型牛の飼育は普及しなかった。 工芸としては鉄の加工(男)と土器づくり(女)がしばしば内婚集団によって行われてきたほか,セネガルやマリに起源をもつ青銅の装身具の細工師(男)がサバンナの各地にひろがっており,水平機(はた)による細長い帯状の綿織物(男)もやはりマリのマンデ系のイスラム化された商人・工芸師によってひろめられた。…

【カメルーン】より

…これらの諸部族は,仮面やブロンズ彫刻,ビーズ細工など,華麗な物質文化を誇っている。(3)中央部のアダマワ高原から以北の北カメルーンには,スーダン語族に属するブーム族,ドゥル族,バヤ族などの土着の部族に加えて,西方や北方からフルベ(フラニ)族,ハウサ族,ボルヌー族などが来住している。アヒジョ初代大統領の出身部族でもあるフルベは,19世紀に入って現在のナイジェリア北部地方に興ったウスマン・ダン・フォディオのイスラム改革運動の影響で,ジハード(聖戦)に基づく征服国家をアダマワ高原に築き上げた。…

【ガンビア】より

…隣国セネガルの主要部族でもあるウォロフ族は19世紀後半より入ってきたが,首都バンジュルの支配的住民として商業を営むかたわら,商品作物のラッカセイ栽培も行う。フルベ(フラニ)族は上流地域で牛を飼育する牧畜民である。ジョラ族はマンディンゴ族に追われ,イスラム化に抵抗して河口から南に追いやられた。…

【ギニア】より

…バガ族,ナル族や,ボケ近辺に居住するランドゥマ族は,言語的には大西洋岸West Atlantic語群に属し,セネガル共和国やガンビア共和国のセレル族,ウォロフ族と近縁である。中部のフータ・ジャロン山地には牧畜民のフルベ族(フラニ,プール)のほか,トゥクロール族やマンデ系のジャロンケ族が居住する。さらに北にはコニアギ族とバッサリ族が居住する。…

【ギニア・ビサウ】より


[住民]
 アフリカ人社会は大別すれば,東部の半封建的であったフルベ(フラ)型社会,西部の未階層化バランテ型社会,そして中間社会に類別できる。人口の多い順に部族構成を示せば,バランテ族(総人口の約30%),フルベ族(20%),マンジャク族,マリンケ(マンディンゴ)族,ペペル族(以上が主要5部族),さらにマンカニヤ族,フェルプ族,ビジャゴ族などである。またムラート(ポルトガル人とアフリカ人の混血),シリア人やレバノン人の商人もいる。…

【サハラ砂漠】より

…(3)ウシの時代 ウシおよびヒツジの牧畜が行われた時代のもので,放牧,狩猟,抗争,舞踊などの光景のほか,会話する人物や交接する男女,炊事,まき割り,寝台に寝る人など,さまざまな生活の情景が表される。作者はフルベ族と考えられる。その理由は,ウシ飼育,半球形の家,弓矢などの武器のほか,男の丸い帽子,女の髪形,一夫多妻制など,両者に共通する多くの事実が存するからである。…

【住居】より

… 最も初源的な形態と思われるのは,木柵や土塀で囲まれた領域にエレメントが点在するもので,この場合,住棟の配列には入口の向きを除いて規則性はない。これは最もルーズな結合のコンパウンドで,定住したトゥアレグ族やハウサ族,フルベ(プール)族などに見られる。住棟は円形で穀倉は壺状となる。…

【ナイジェリア】より

…12月半ばから2月半ばにかけてサハラ砂漠から吹く乾燥した熱風ハルマッタンの影響は,とくに北部に強くみられる。【端 信行】
[住民,社会]
 1億を超える人口をもつ大国であるが,西部のヨルバ族,東部のイボ族,北部のハウサ族およびフルベ族(フラニ族)の大きな部族が勢力を分けあっている。これらの部族は人口も500万から1000万以上を数え,もはや部族ということばはあてはまらない。…

【ニジェール】より

…【端 信行】
[住民,社会]
 住民の大部分は西部のニジェール川流域と,南部のサヘル地帯に集中している。人口の多い部族をあげると,ハウサ族(54%),ソンガイ族および近縁のジェルマ族Djerma(23%),フルベ(フラニ,プール)族(10%)などで,ほかにトゥアレグ族(3%)もいる。住民の85%がイスラム教徒で,残りのほとんどは部族固有の伝統宗教を信仰している。…

【ハウサ族】より

…おもに西アフリカのナイジェリア北西部からニジェール南部にかけて住む一大民族。人口は約1000万で,この地域最大の民族であるが,フルベ(フラニ)族の半数(約250万)が同じ地域に住み,支配階級となっている。この支配階級としてのフルベ族はハウサ語を話し,ハウサ文化に同化している。…

【フラニ王国】より

…19世紀に西アフリカのナイジェリア北部一帯に領域を拡大,繁栄したイスラム神政国家。フルベ族Fulbe(フラニ族Fulani)はニジェール川やセネガル川の上流域で遊牧を営む民族であったが,しだいに東方に移動し,18世紀にはナイジェリア北部のハウサランドHausaland(ハウサ族の居住地)に定着し,イスラムに帰依した。18世紀後半から北部ハウサランドのゴビル王国で活動していたフルベ族の熱心なイスラム指導者ウスマン・ダン・フォディオは,ゴビル王のイスラム信仰を批判し,ハウサ族農民とフルベ族遊牧民とを合体させてジハード(聖戦)を宣言,19世紀初めまでにハウサランド全域を平定した。…

【ブルキナ・ファソ】より

… 野生動物の減少が著しく,南部のポー,東部のアルリーを中心に,象,ライオン,野牛などの保護地区が設けられている。
[住民,社会]
 ブルキナ・ファソの住民は,ボルタ語族に属する言語をもつモシ族(約300万人),ロビ族およびダガリ族(約44万人),ボボ族(約42万人),グルンシ諸族(約33万人),グルマンチェ族(約28万人)等が過半数を占め,次いで西アトランティック語族に属する言語をもつフルベ族(約66万人),マンデ語族に属する言語をもつサモ族(約14万人),ビサ族(約13万人)から成る。とくに西部地方は小部族集団に分かれており,部族の単位のとり方にもよるが,ブルキナ・ファソ全体で60以上の部族集団があるとみられる。…

※「フルベ族」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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