江口(読み)えぐち

百科事典マイペディア「江口」の解説

江口【えぐち】

淀川の本流から三国(みくに)川(現在の神崎川)が分岐する地点にあった水上交通の要所。現在の大阪市東淀川区の東端,江口付近にあたる。785年淀川と三国川との間に新川を掘って水路で結ぶ工事が行われてから急速に発展,平安京から山陽西海両道へいく道と南海道方面へいく道とに分れる交通の要衝となった。とくに平安中期以降,紀州熊野・高野(こうや)山,あるいは摂津(せっつ)四天王寺・住吉社(住吉大社)参詣などが盛行し,また貴族・権門寺社などの荘園領主と現地の人間・物資の交流・輸送が頻繁になってくると,往来の途次,江口に宿泊する者が激増してきた。そして江口宿には,その往来宿泊の客を対象として多数の遊女が集まり,摂津神崎(かんざき)・蟹島(かしま)などと並んで色里として繁栄していった。その様子は大江匡房(まさふさ)の《遊女記》に詳しい。遊女のなかには貴族の妻妾となる者もあり,《尊卑分脈》や《公卿補任》などにはその母を遊女と記す者がかなり存在する。遊女のなかで特に有名なのは,西行の歌問答で知られる遊女妙で,彼女の歌は《新古今和歌集》《山家集》に収録されている。なお妙は俗に江口君(えぐちのきみ)とよばれ,西行との歌問答後発心して庵(江口君堂)を建立したと伝え,その後身という日蓮宗寂光(じゃっこう)寺が江口にある。→宿・宿駅
→関連項目河尻難波津

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典「江口」の解説

江口
えぐち

曲名。三番目物。観阿弥原作,世阿弥改作。旅 (ワキ) が摂津の国江口の里に立寄り,西行法師の昔を思い出して古歌を口ずさんでいると,里の女 (前シテ) が現れ,その古歌について問答をかわしたのち,自分は遊女江口の君の幽であると名のり,夕霧かなたに消える (中入り) 。僧が夜もすがら読経していると,月下川面に屋形舟が浮び,遊女たちの姿が見える。江口の君 (後シテ) は人生の苦しみや心の迷いを語り,舞 (の舞) を舞う。やがて,舟は白象と化し,遊女は普賢菩薩となって西の空へ去る。鬘物 (かずらもの) の華麗さと宗教的崇高さを兼ねそなえた格調高い名作。この能に基づいた長唄時雨西行』がある。

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精選版 日本国語大辞典「江口」の解説

えぐち【江口】

[一] 大阪市東淀川区の地名。淀川から神崎川(旧三国川)が分流する所にある。平安時代から西海と京を結ぶ海路河港として繁栄し、遊女の多いことで知られた。
[二] 謡曲。三番目物。各流。世阿彌作(曲舞は観阿彌作曲)。摂津の国江口の里を訪れた旅の僧が、昔、西行法師と遊女江口の君がよみかわしたという歌を口ずさんでいると、里の女が現われて当時のことを語り、自分がその遊女の亡霊であると言って消える。やがて、僧の読経で江口の君は遊女たちと船遊びのさまを再現し歌舞を奏するうちに、不思議にも船は白象と化し、江口の君は普賢菩薩に身を変えて西の空へ昇っていく。

こう‐こう カウ‥【江口】

〘名〙 河川が海に注ぎこむ所。河口
※米欧回覧実記(1877)〈久米邦武〉一「江口の幅は、一英里に及ぶ」 〔白居易‐琵琶行〕

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デジタル大辞泉「江口」の解説

えぐち【江口】

大阪市東淀川区の地名。淀川神崎かんざき分流点。古くは京都と西国を結ぶ海路の河港で、遊女が多くいた。
謡曲。三番目物観阿弥作。世阿弥改作ともされる。撰集抄などに取材。江口の君の霊が現れ、歌ったり舞ったりするうち、普賢菩薩ふげんぼさつに変身し、西方へ去る。

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世界大百科事典 第2版「江口」の解説

えぐち【江口】

大阪市東淀川区にある地名。淀川と神崎川の分岐点に位置する交通の要衝で,平安京から山陽,南海,紀伊への重要基点でもあったから,朝廷の所領がこの地に設定された。平安時代後期の学者大江匡房の《遊女記》に〈山城国与渡の津より,巨川に浮かんで西行すること一日,之を河陽と謂ふ。(中略)流を分ちて河内国に向かふ。之を江口と謂ふ。蓋し,典薬寮味原の,掃部(かもん)寮大庭庄の地なり〉とあり,江口が典薬寮と掃部寮の差配する地であったことが知れる。

えぐち【江口】

能の曲名。三番目物鬘物(かつらもの)。観阿弥作か。シテは江口の遊女の霊。旅の僧(ワキ)が摂津の国に赴き,江口の遊女の旧跡を訪れると,若い女(前ジテ)に呼びとめられる。女は,むかし西行法師が遊女に一夜の宿を求めた話などをするが,自分はその遊女の霊の仮の姿だと明かして消える。その夜,月の澄みわたる川面に屋形舟が浮かび,遊女たちの姿が見える。遊女の霊(後ジテ)は,人の世の迷いが集約されているその環境こそ悟りへつながるのだと語り(〈クセ〉),舞を舞う(〈序ノ舞〉)。

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世界大百科事典内の江口の言及

【売春】より

…ただし,その営業形態などの詳細は不明であり,売春婦の系譜として巫女(みこ)または流浪芸人をあてる説も確証に乏しい。一般的に古代において売春が成り立ったのは,旅行者などを対象としてのものと推定されるが,次の平安時代に著名となる売春地帯が,江口神崎などの港や宿駅であることは,旅と売春との密接な関係をうかがわせる。中世以後における交通の発達と都市の発展とは,売春の機会と人員とを増加させ,近世初頭には豊臣秀吉が遊女を一区域に集める公娼制を採用した。…

【遊女】より

…もっともこの風習は近世初期まで続き,江戸城の評定所で会議のときに遊女が3人ずつ給仕人として出仕したと伝えられる。1100年前後の成立と考えられる《遊女記》(大江匡房著)は古代の遊女のありさまを描写したものであるが,そこに取り上げられたのは淀川河口の江口神崎(かんざき)などに集まっていた遊女である。同様に水辺で小舟に乗って売春する街娼的遊女として浅妻船(あさづまぶね)の存在がしられている。…

【遊女記】より

…平安末期の漢文体の短文。漢文学者大江匡房が,江口や神崎の遊女たちの様を書き記したもの。それによると,当時西国から京への交通の要所にあたる神崎川には江口,神崎,蟹島などの遊里が発達していた。…

※「江口」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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