日本大百科全書(ニッポニカ) 「ブライヤーズ」の意味・わかりやすい解説
ブライヤーズ
ぶらいやーず
Gavin Bryars
(1943― )
イギリスの作曲家、コントラバス奏者。ヨークシャー県グール(現、ウェスト・ヨークシャー県)生まれ。1961年シェフィールド大学に入学し哲学を学び、そこで初期のミニマリズムの美学に関心をもつ。
ブライヤーズは、初めジャズ・ベーシストとして名を知られ、1963~1966年ギタリストのデレク・ベイリーDerek Bailey(1930―2005)と共演。1963年にジョン・ケージがエリック・サティの『ベクサシオン』(1893)を正確に840回繰り返す初演を行った際、交代するピアニスト・メンバーの一人でもあった。また1969年から教鞭をとっていたポーツマス美術大学で「ポーツマス・シンフォニア」を設立。このオーケストラはプロのミュージシャンとアマチュアの演奏家が楽器を交換し、わざと皆が知っているような名曲を弾き、不慣れな楽器でおのずとミスの多い演奏になるため聴衆の笑いを誘うというものであった。同時に、間違えたことによるずれを意図的に楽しむという趣旨もあった。
ブライヤーズの作曲家としての初めての重要な作品は『タイタニック号の沈没』(1969)で、豪華客船タイタニックが沈没する瞬間まで弦楽器奏者が賛美歌を演奏していた事実にもとづき、沈んでいく船中の音楽の状況を再現している。1971年の『ジーザス・ブラッド・ネバー・フェイルド・ミー・イェット』Jesus' Blood Never Failed Me Yetは、テープに録音された名もない男が口ずさむ宗教歌の歌声が何度も反復されて増幅され、そこにストリングが絡むという作品で、その後1993年トム・ウェイツによってあらためて録音された。
1984年最初のオペラ『メデア』がリヨンのオペラ座とパリ・オペラ座で上演され、ブライヤーズは国際的に有名になった。以来、劇場、ダンス、映画の音楽も数々手がけ、一方でコンサート・ホールでも彼の音楽は演奏されている。またBBC交響楽団、アルディッティ・カルテット、ヒリヤード・アンサンブル、バラネスク・カルテット、ジャズ・ベーシストのチャーリー・ヘイデンCharlie Haden(1937―2014)、ビル・フリゼール、自身のグループであるギャビン・ブライヤーズ・アンサンブルなどにより、彼の音楽は世界各地で演奏されている。
そのほかの代表的な作品には『ザ・ラスト・デイズ』The Last Days(1995)、『哲学への告別』(1996)、『ア・マン・イン・ア・ルーム、ギャンブリング』A Man in a Room, Gambling(1997)、『カドマン・レクイエム』(1998)などがある。
[小沼純一]