フランス南東部,ローヌ県の県都で,ローヌ・アルプス地域の中心都市。パリの南東460km,マルセイユの北314kmの地点にあり,ローヌ川とソーヌ川の合流点に位置する。人口44万5452(1999),都市圏人口約126万。市域の人口数ではパリ,マルセイユに次いでフランス第3の都市。リヨン市を中心として都市人口の多い約60のコミューンが広がり,これらが連続してリヨン都市圏を形成している。都市圏の人口数は,パリ都市圏に次いでフランス第2の規模を有している。リヨンの人口は,1801年にすでに10万に達し,19世紀には人口の急速な増加をみて,第1次大戦前にすでに50万に達しようとしていた。第2次大戦後になると,人口増加は郊外部において顕著となり,リヨン都市圏内の郊外部では1914年以前には人口15万であったものが,54年には30万,現在では70万を超えている。郊外化の進展の著しい地区は,とくに東郊であり,たとえばビルールバンヌVilleurbanneやベニシューVénissieuxなどの主要な衛星都市が成長している。また,78年に開通した地下鉄によって郊外化をさらに促進させている。
リヨンは古くからローヌ川とソーヌ川が形づくる回廊地帯の中心部を占めて,地理的に恵まれた位置に成長してきた。首都のパリ地方と地中海沿岸を結ぶ南北軸の中間地点にあるばかりではなく,東西の軸であるアルプスとマシフ・サントラル(中央山地)の中間地点にも位置している。国内の交通の要衝であるばかりでなく,ドイツ,イタリア,スイスそして大西洋岸に通じる位置にもある。ローヌ川,ソーヌ川の合流点の西側にはフルビエールの丘がそびえ,都市を建設し防衛するにふさわしい地形も有していた。ローヌ川とソーヌ川に沿った河谷は鉄道敷設を容易にし,数多くの鉄道が集中して鉄道網の要地になった。両河川による河川交通は,古くからエドゥアール・エリオ港を中心になされ,現代ではパリと地中海地方を結ぶ高速道路が走る。それに加えてパイプライン網の要衝でもある。フランス最初の高速鉄道(TGV)もまずパリ~リヨン間が開通し,これがマルセイユまで南下することによって,主要都市と短時間で結びつくようになった。さらに,航空機時代を迎えてブロン空港に加えてサトラス国際空港が開設された。
リヨンの産業活動を支えてきた伝統的な絹織物工業や繊維工業は,大きな変化を強いられている。かつての絹織物業の大半は,合成繊維・人工繊維の紡糸・織物業へ転換し,さらには既製服などの縫製業も増加した。工場も大規模なものが増加してきている。近代工業は主として都市の周辺部に立地し,とくに化学工業,自動車工業そして電子工業などの組立工業が主体である。しかしリヨンには,鉄鋼業を除いてエネルギー生産(主として水力発電)から食品工業まで,ありとあらゆる工業業種が存在する。化学工業の中には伝統的な繊維工業に関連して仕上げや染色に結びついて誕生した業種もある。一方,南郊フェイザンFeyzinの近代的な石油精製業はリヨンを一躍石油化学工業の一大中心地にし,ローヌ川に沿って石油化学工業の工場群が建ち並ぶ様相を目にすることができる。第3次産業部門も,当然,大都市であるためきわめて多様化し,高度化している。たとえば教育,行政,商業,金融(銀行と証券)の諸機能が充実し,軍事機能でも地域的な中心地で,司法控訴院,司教座もある。
都市の起源は,フルビエールの丘にローマの植民都市ルグドゥヌムLugdunumが建設されたことに始まる。アウグストゥスの時代にガリア地方の中心都市となって急成長し,461年ブルグント王国の最初の首都になった。15世紀以降,アルプス山中の谷を経由して北イタリアとの貿易が盛んになり,まず商業が発達し,ついで絹織物工業が発展した。商業都市として成長してきたリヨンでは,1420年には定期市が創設され,商業都市としての地歩を固めた。絹織物工業が導入されたのが1466年であり,73年には印刷技術がもたらされ,フランスの中では最初にフランス語の本がリヨンで出版されてフランス・ルネサンス文化の一大中心地となった。国王の保護下に成長した絹織物工業は,イタリアから伝えられた技術を基礎にし,周囲の農村部での養蚕や農業労働力と結びつきながら,印刷業とともに特殊産業として発展した。そのため,〈絹商人〉と呼ばれた活発な企業家たちが富を築いた。19世紀初めに絹織物工業は,ジャカード織機の発明によって最盛期を迎えた。しかし,工業の発達とともに社会的な対立が顕著になり,1831年に起きた労働者の反乱は政府の武力弾圧によって鎮定されたが,34年に再び反乱が起こり,同市の労働運動はフランスの先端を切った。また諸産業の発達と交易の中心地であることは金融資本を育て,金融業者の集中を促し,63年には預金銀行クレディ・リヨネが創設された。この銀行は1945年に国有化され,フランス第2の規模を誇っている。絹織物工業が衰退したのち,近代工業への橋渡しを行ったのは,地域的な資源を活用した工業であった。たとえば,サン・ベルとその周辺の黄鉄鉱と銅鉱の採掘,サンテティエンヌの石炭業,アルプス・ローヌ地方の水力発電などである。
都市圏人口がフランス第2の都市に成長したリヨンでは,近代的な都市生活にしだいに適応しなくなった市街地の再開発と,郊外において増加する人口を受け入れるニュータウンの建設が進められている。市の中心部より東へ33kmの位置にはリル・ダボーのニュータウン建設が進み,サトラス国際空港が両者の中間に開港した。市街地の再開発は,まずリヨンのペラーシュ駅を中心とする地区に始まった。さらに大規模な都市再開発事業は,ローヌ川左岸のラ・ギロティエールとレ・ブロトー両街区にわたるラ・パール・ディユー地区で進められている。この地区は中世起源の労働者居住地域で,土地割りは細かく道路は曲がりくねり,人口密度が高く各種の業種が混在していた。この約30haの地域に,国の行政機関が入った新しいビル街をはじめ,多くの百貨店や専門店からなる中心商業地区,銀行・ホテルを主体とした高層ビル群が並び,新しい高速鉄道の駅も開設されようとしている。フランス政府は,大都市に集中する第3次産業を地方の地域発展のために〈均衡メトロポールmétropole d'équilibre〉に分散させる政策をとってきた。リヨンは国内八つの均衡メトロポールの一つである。パール・ディユー地区の都市再開発事業は,フランスの地方都市において最大規模のものである。第3次産業を中軸として高度な機能を創造することにより,リヨンを従来の広域中心都市から副首都の機能をもつ都市へ指向させようとしている。
執筆者:高橋 伸夫
フルビエールの丘の上には,1871-94年にロマネスクやビザンティンの折衷様式で建造されたノートル・ダム・ド・フルビエール教会がそびえ,近接してガロ・ロマン博物館やローマ時代の大劇場,オデウム(奏楽堂)の遺跡がある。丘の麓のサン・ジャン大聖堂(12~15世紀)は,内陣の高さ24.5mに対し,遅れて建造された身廊は32.5mと一段と高い。大聖堂の守護聖人,バプテスマのヨハネ伝を表すステンド・グラス,浮彫(西玄関下方)が知られる。付近には,14~17世紀の建造物が残る〈古きリヨン〉の町並みがある。ローヌとソーヌ両河川にはさまれた半島状の地区には,サン・マルタン・デネー旧修道院教会とサン・ニジエ教会が建つ。前者は改築部分が多いが,12世紀初めのモザイク,聖書の場面や動物文の彫刻のある柱頭が残る。後者は当市最古の創建といわれるが,現在の建築(14~15世紀)はフランボアイヤン様式のファサードにルネサンス式玄関を備える。市立美術館は旧ベネディクト会修道院を占め,歴史博物館とマリオネット博物館は16世紀の邸館に入っている。織物歴史博物館のビザンティン,イスラムなどの織物,17世紀以降のリヨンの絹織物をはじめ30室に及ぶコレクションは世界有数である。
執筆者:五十嵐 ミドリ
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フランス中東部、リヨネ地方の中心都市で、ローヌ県の県都。パリ南東462キロメートル、ローヌ川とその支流ソーヌ川との合流点に位置する。人口44万5452(1999)、51万3275(2015センサス)は、首都パリ、マルセイユに次いで同国第3位。また周辺に隣接するビルルバンヌVilleurbanneやベニシューVénissieuxなどの諸都市と連接して大都市圏を形成する。行政諸官庁の所在地であるほか、裁判所、大学や各種専門学校などの高等教育機関も置かれ、軍団管区、大司教も所在し、リヨネ地方の行政、司法、教育、軍事、宗教上の中心地となっている。また銀行などの金融機関が多く、株式取引所もあり、毎年4月に国際見本市も開かれるなど、商業も活発である。さらに同国屈指の工業都市で、郊外を中心に機械・金属、自動車、電子工業、石油精製、化学、織物などの諸工業が立地し、とりわけ18世紀に発達した絹織物工業は有名である。
1801年には人口10万余りであったが、19世紀に急増し、第一次世界大戦前には50万近くに達した。しかし、市域が50平方キロメートルと狭く、大部分が都市化したため人口は停滞した。逆に、郊外の人口は1914年の15万余りから激増し、とくにローヌ川の東側に市街地が広がった。リヨンの古代からの繁栄はその地理的位置によるところ大で、ソーヌ、ローヌ両河川の合流部にある比高100メートルのフルビエールの丘は、地中海と北西ヨーロッパとの中継基地の防御地点として役だった。リヨンの都市圏は、地下鉄の実現と、鉄道、高速道路、航空路、河川交通による各地との連絡の容易さによって発展した。
市内には歴史的記念物、建造物が数多く存在する。野外劇場などローマの遺跡がフルビエールの丘に残り、ガリア・ローマ文明博物館が設置されている。丘上にはフルビエール・ノートル・ダム寺院(19世紀)がそびえ立つ。丘とソーヌ川との間にある旧リヨン地区の町並みは美しく、ゴシックやルネサンス様式の建物が数多く残り、リヨン歴史博物館、マリオネット博物館、ロマネスクとゴシックのサン・ジャン大聖堂(12~15世紀)などがある。ソーヌ川とローヌ川の間には、テロー広場周辺にバルトルディの泉、市役所、美術館などがある。ほかに、ロマネスクのサン・マルタン・デネ・バシリカ、15世紀のサン・ニジェ教会、サン・ボナバンチュール教会、織物歴史博物館、装飾芸術博物館、ギメ美術館などがある。
[大嶽幸彦]
紀元前1世紀なかばローマ人がこの地に植民市を建設し、当時ルグドゥヌムLugdunumとよばれた。交通上の要衝にあり、商業都市として、またガリアを治める行政都市として栄えた。紀元後2世紀末、皇帝セプティミウス・セウェルスは敵対者アルビヌスDecimus Clodius Albinus(150?―197)に味方したことを理由にリヨンを破壊し、以後衰退したが、カロリング朝のもとで司教座都市として活気を取り戻した。1032年に神聖ローマ帝国領になったが、事実上は大司教の治政下にあった。13世紀には絹織物業が盛んになり、それとともにブルジョアジーはフランス国王の支援を得ながら教会勢力と対抗するほどに力を増した。1312年フランス王領となる。15世紀なかば国王から市場開催の特権を得、ヨーロッパ各地から人が集まる国際的経済都市となった。ルネサンス時代のユマニストもこの地で活動した。
宗教改革運動も活発で、宗教戦争の時期にはカトリックとプロテスタントの対立がすさまじく、都市は荒廃した。フランス革命期には、パリの国民公会に抗してジロンド派、王党派の牙城(がじょう)となり、これを制圧したフーシェは恐怖政治を敷いた。政治的流血は19世紀にも起こった。17世紀以降、絹織物業はいっそう発展を遂げ、19世紀前半にはリヨンはヨーロッパ最大の絹織物業都市となった。絹織工は、劣悪な労働条件と共和主義思想の普及を背景にして、1831年と1834年の二度にわたって大規模な反乱を起こした。反乱は政府によって制圧されたが、織物業はこれを機に市外に逃れるようになった。19世紀なかば以降、蚕病の流行と中国や日本の躍進によって絹工業は後退を余儀なくされたが、周辺に化学や機械などの工業地帯を抱えながら、国際生糸市場として、また金融市場として発展した。政治的にはリヨンは第三共和政期に急進党の地盤で、その指導者エドゥアール・エリオは市長を約50年間も続けた。第二次世界大戦中はドイツ占領下にあり、レジスタンスの拠点となった。1944年9月自由フランス軍によって解放された。
[本池 立]
さまざまな建造物が残るフルビエールの丘と旧市街は1998年、ユネスコ(国連教育科学文化機関)により「リヨン歴史地区」として世界遺産の文化遺産に登録された(世界文化遺産)。
[編集部]
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フランスのローヌ,ソーヌ両川合流点にある都市。前43年ローマ植民市。ブルグント,ついでフランクに属し,ヴェルダン条約で西フランク王国から離れ,1032年神聖ローマ帝国に帰属した。以後,町はだいたい大司教支配に属したが,12世紀末コミューン,1312年王領に併合された。フランソワ1世以来絹織物業の中心として名高い。
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出典 旺文社世界史事典 三訂版旺文社世界史事典 三訂版について 情報
… フランスの絹織業は13世紀以降パリ,ルーアン,とくに教皇の町アビニョンなどで営まれたが,中世における絹製品はおもに小間物であった。後に〈絹の都〉とよばれるにいたったリヨンでの絹織物工業の発祥は,1466年のルイ11世によるイタリア人絹職人の同市への招致にあったが,本格的な発展の開始は1536年にフランソア1世によって原料絹,絹織物の専売権が付与されたときからである。17世紀初頭における新型の空引機(そらひきばた)=高機(イタリア人のダンゴンの発明)の獲得を機に,J.B.コルベールによる手厚い保護も加わって,リヨン機業の目覚ましい繁栄が始まった。…
※「リヨン」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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