日本大百科全書(ニッポニカ) 「ブラック・サバス」の意味・わかりやすい解説
ブラック・サバス
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Black Sabbath
1967年、イギリス、バーミンガムで結成されたヘビー・メタルの始祖的なロック・グループ。オリジナル・メンバーはトニー・アイオミTony Iommi(1948― 、ギター)、オジー・オズボーンOzzy Osbourne(1948― 、ボーカル)、ギーザ・バトラーGeezer Butler(1949― 、ベース)、ビル・ワードBill Ward(1949― 、ドラムス)の4名。70年代に入り、いわゆるラウド(大音響)なブルース・ロックとしてのハード・ロックはすでに人気を獲得していたものの、彼らのサウンドはそれらとはまた趣(おもむき)が異なり、暗く重苦しいギター・リフを中心にした楽曲、そしてオカルト趣味を前面に出したイメージ戦略によって、独特のポジションを獲得していった。「1970年2月13日金曜日にデビュー・アルバムをリリース」というエピソードも、今となってみれば単なる話題づくりでしかないのだが、ロックや、その担い手である若者文化が、まだ社会通念や大人の価値観を揺るがしかねない脅威と思われていたころの話ゆえ、黒魔術や悪魔崇拝といったこけおどしめいたモチーフが、若いファンたちにも喜ばれたのであろう。しかし日本では、レッド・ツェッペリンやディープ・パープルといった大物バンドと較べて、このブラック・サバスだけが、同時代的にはなかなか人気が出なかったのだが、その背景にはこうした文化性の伝わりづらさがあったのかもしれない。
70年リリースのセカンド・アルバム『パラノイド』に収録された同名曲がアメリカで大ヒット。続く『マスター・オブ・リアリティ』(1971)、『ブラック・サバス4』(1972)、『サバス・ブラッディ・サバス』(1973)などのころが、いわばオリジナル・サバスの全盛期にあたった。しかし社会的、商業的な成功を収めていくのとは裏腹に、メンバーのアルコール、ドラッグ中毒もまた、みるみる悪化の一途をたどった。そして77年ボーカルのオズボーンが体調不良を理由にグループを脱退。翌年にいったんはバンドに戻り、アルバム製作に参加するが、79年のアメリカ・ツアーの最中に解雇される。ブラック・サバスを追われたオズボーンはその後、若手ギタリストのランディー・ローズRandy Rhoads(1956―82)を発掘し、ソロ活動で成功。
残されたブラック・サバスは、新ボーカリストとして元レインボウのロニー・ジェームズ・ディオRonnie James Dio(1949― )を招き、80年に起死回生のアルバム『ヘブン・アンド・ヘル』を発表。サウンド面でもレインボウとブラック・サバスという二つのグループの色合いが絶妙にブレンドされた同作は、当時吹き荒れていたNWOBHM(New Wave of British Heavy Metal)ムーブメントにも後押しされ大成功を収める。しかし次作の『モブ・ルールズ』(1981)を制作した後にディオがバンドを脱退。以後ブラック・サバスには、イアン・ギランIan Gillan(1945― )、グレン・ヒューズGlenn Hughes(1953― )、トニー・マーチンTony Martin(1957― )、コージー・パウエルCozy Powell(1947―98)など、有名無名を問わず多くのメンバーが出入りを繰り返す(ディオもいったん復帰する)という混乱が続き、一時はアイオミのソロ・ユニットとして命脈を保っていた時期もあった。そのため、作品の質もアルバム・セールスも長らく低迷を続けていた。
しかし近作の出来の悪さにもかかわらず、ブラック・サバスの名が若いファンへと語り継がれていったのは、一つには初代ボーカリスト、オズボーンのソロ活動の大成功、そしてもう一つには、ブラック・サバスを聞いて育ってきたミュージシャンの台頭という、二つの援護射撃のおかげだった。後者に関連して、ヘビー・メタル・バンドはもちろんのこと、ハードコア・パンク(パンクとヘビー・メタルの境界上にあるロック)やドゥーム・メタル(スローでダークなヘビー・メタル)、スラッシュ・メタル(スピーディーで荒々しいヘビー・メタル)、さらにはグランジからオルタナティブ(ガレージ・ロックからポスト・ロックに至るアンダーグラウンドなロック)といった幅広い層のルーツ・サウンドとして、オリジナル・ブラック・サバスが「再発見」されていった。そして80年代にソロ・アーティストとして大成功を収めたオズボーンも、92年には引退を発表、その後95年には現役復帰を宣言するというような紆余曲折もあったが、96年以降は毎年、自身の名前を冠に据えた大型ヘビー・メタル・フェスティバル「オズ・フェスト」を全米で開催。97年には同フェスティバルの目玉として、オリジナル・メンバーによるブラック・サバスの再結成を実現させた。
[木村重樹]