日本大百科全書(ニッポニカ) 「ヘビー・メタル」の意味・わかりやすい解説
ヘビー・メタル
へびーめたる
heavy metal
1970年代のハード・ロックをより重厚かつ荘厳、激しくスピーディーなサウンドとして継承したロックの一ジャンル。音色を歪ませた残響の長いギター・サウンド、重厚なリフレイン(楽曲を構成する基本フレーズ)とパワフルなドラムスが特徴で、しばしば大げさな様式性を示す。
ヘビー・メタルという言葉を文学表現で最初に使ったのは、ビート世代の作家ウィリアム・バローズであるとされているが、ロック・ミュージックの一ジャンルの呼び名として用いられたのは、ブルー・オイスター・カルトという、主に70年代中期に活躍したニューヨークのグループについてのものが最初であった。彼らやブラック・サバスが打ち出した、悪魔崇拝やホラー、オカルトのイメージを、金属的で重厚なハード・ロックで展開するグループを指すジャンルとして、ヘビー・メタルは定着していく。
70年代末には、当時隆盛を極めたパンク・ロックの影響を受け、より攻撃性とスピード感を増したヘビー・メタルのグループがイギリスを中心に多数出現した。このヘビー・メタル流行はNWOBHM(New Wave of British Heavy Metal)と呼ばれ、アイアン・メイデンやジューダス・プリースト、デフ・レパードらが人気を博した。80年代のアメリカでもヘビー・メタルは人気を呼び、またイングウェイ・マルムスティーンYngwie J. Malmsteen(1963― )やジョー・サトリアーニJoe Satriani(1956― )といったギター・ヒーローはギター少年たちのアイドルとなる。ヘビー・メタルはスタジアム・コンサートに数万人の観客を集めるまでに巨大産業化した。メタリカがノイジーなまでに激しく強烈なスピードを特徴とするスラッシュ・メタルを生んだ80年代後期には、デス・メタル(スラッシュ・メタルと対極的に、極度に遅いテンポで押し殺したような陰鬱なサウンドを特徴とするヘビー・メタル)、ドゥーム・メタル(絶叫調のボーカルとノイジーなサウンドで死や悪魔的イメージを描くヘビー・メタル)など多くのサブジャンルが生じた。これらのサブジャンルはヘビー・メタルの方向性をそれぞれによりいっそう追求したものだったが、一般に受け入れられるには過激すぎた。
90年代に入ると、グランジ/オルタナティブの流行によって、ヘビー・メタルの隆盛にも陰りが見られるようになる。その後一部の正統的グループ以外のヘビー・メタル・グループは、アンダーグラウンドなロック・シーンへと沈潜し、かつて固守していた様式性を放棄してパンクやグランジ、インダストリアルなどの他ジャンルと混淆(こんこう)を深めている。
[増田 聡]