改訂新版 世界大百科事典 「ヘラコウモリ」の意味・わかりやすい解説
ヘラコウモリ (篦蝙蝠)
American leaf-nosed bat
翼手目ヘラコウモリ科Phyllostomidaeの哺乳類の総称。多くにへらの形に似た鼻葉があるのでこの名がある。アメリカ合衆国の南西部から西インド諸島を経て,南アメリカの熱帯および亜熱帯に分布する。約51属151種があり,形態,食物,すみ家などきわめて変化に富み,旧世界のさまざまな科と平行的な進化を示している。そのため,7亜科に大別されるが,これらの亜科を独立の科とする見解もある。前腕長3~11cm,頭胴長4~14cm,尾長0~6cmで,尾を欠くものがある。多くのものは鼻葉をもつが,まれに,それが小さいものまたはまったくないものもある。この科の中で最大で,耳介が大きく,顔が奇妙なチスイコウモリモドキVampyrum spectrumは翼開張が70~90cmに達する。またオオハダカヘラコウモリPteronotus suapurensisは背の正中部付近で飛膜が合一する。多くは耳介が大きく耳珠(じしゆ)をもつ。
洞窟,岩の割れ目,木,建物,動物が掘った穴の中などに,大群,小群,あるいは単独で生活する。中型のテントコウモリUroderma bilobatumは,日中は太陽,雨あるいは天敵からのがれるためにシュロの葉の茎をおり,テント型にして,その下で休息する。食物はおもに昆虫,果物,花粉であるが,肉食のものもある。もっともふつうのオオヘラコウモリPhyllostomus hastatusは果物,昆虫および小さい脊椎動物を食べるが,犬歯ががんじょうで小鳥や他のコウモリをかみ殺すこともできる。花粉や花みつを食べる類は舌が長く,口外に長く突き出すことができその先端はブラシ状を呈する。
この科の化石は南アメリカでは中新世から更新世にかけて,北アメリカと西インド諸島では更新世に発見されている。
執筆者:吉行 瑞子
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報