日本大百科全書(ニッポニカ) の解説
ベーターラパンチャビンシャティカー
べーたーらぱんちゃびんしゃてぃかー
Vetālapañcaviśatikā
古代インドのサンスクリット説話集。「屍鬼(しき)二十五話」と訳される。原作者、年代ともに不明であるが、原本を基にしたサンスクリット語の散文、韻文の数種の異本が伝わっている。この集録の古い形は『ブリハットカターマンジャリー』とソーマデーバ作『カターサリットサーガラ』の一部として伝わるものがあるが、このほかに散文と韻文を交えた独立の物語集としてシバダーサ本、ジャンバラダッタ本、バッラバダーサ本があり、近代インド語としてはヒンディー語の『バイタール・パッチーシー』が普及し、蒙古(もうこ)語訳『シッディキュル』もある。
ベーターラは死骸(しがい)に憑(つ)く一種の鬼で、勇敢なトリビクラマセーナ王が、墓地の樹上に懸けられた死骸を降ろして無言のまま負い行くとき、これに乗り移って一つの物語をし、話の終わりに難問を設けて王に解答を求める。王が無言の禁を破って解答を与えると、死骸はたちまち元の樹上に戻り、このようにして25夜が過ぎ、ついに王が解答に窮したとき、初めて王を殺そうとする悪修行者の奸計(かんけい)を明かしてこれを仆(たお)し、王に神通力を獲得させる。ここに収められた25話はいずれも機知に富み、東西の文学に伝わっているものも少なくない。
[田中於莵弥]
『上村勝彦訳『屍鬼二十五話 インド伝奇集』(平凡社・東洋文庫)』