マヌ
まぬ
Manu
古代インド神話における、人間の祖先。後期ベーダ文献である『ブラーフマナ』(祭儀書)に、人祖マヌと大洪水の伝説が存する。ある日、マヌが水を使っていると、1匹の魚が、洪水により生類が全滅すると予言する。マヌは魚を養ってやり、大魚となったときに海に放つ。やがて洪水が起こったとき、マヌは用意した舟に乗り、その魚に導かれて北方の山(ヒマラヤ)に行く。洪水はすべての生類を滅ぼし、地上にマヌだけが残る。マヌは子孫を欲して苦行し、祭祀(さいし)を行うと、1人の女が生まれる。マヌは彼女とともに人類を生み出す。なお、ヒンドゥー教のプラーナ聖典においては、現在の世界の祖であるマヌ(Vaivasvata Manu)を含む14人のマヌがいる、とされる。
[上村勝彦]
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マヌ
Manu
インド神話における人類の始祖。『リグ・ベーダ』ではビバスバット vivasvat (光照者) の子とされ,人類の始祖として,祭祀の方面で特に称賛された。『シャタパタ・ブラーフマナ』のなかの「マヌと大洪水の物語」は特に有名で,人類の起源に触れている。この神話は叙事詩やプラーナにも発展的に引継がれ,マヌを洪水から救ったマツヤ (魚) はビシュヌ神の化身とされるにいたった。旧約聖書ノアの洪水の物語との類似が注目されてきたが,セム族のこの伝説をインド人が移入したか否かは断定できない。またマヌは最初の法典制定者としても重要視されている。
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マヌ
インド神話における人類の始祖。魚を助けたことにより大洪水の難をのがれ,神々への最初の供犠者となる。また最初の法典である《マヌ法典》の制定者とされる。
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世界大百科事典(旧版)内のマヌの言及
【インド神話】より
…ブラーフマナ文献中にはまた,祭式の解釈と関連して,かなりまとまった形の神話が散見される。例えば,人祖マヌと大洪水の伝説,天女ウルバシー伝説,山の翼を切ったインドラの話,悪魔の住む三都を破壊するルドラ(シバ)神の話などは,後代のヒンドゥー教の神話,文学に多大な影響を与えた。
【ヒンドゥー教の神話】
ヒンドゥー教の代表的な文献は,二大叙事詩《マハーバーラタ》と《ラーマーヤナ》である。…
【マヌ法典】より
…紀元前後2世紀の著作。[バラモン]の日常生活の規範,さらに全人民の社会規範と王の職務について記した書があったが,これらを継承して,体系的に詳しく規定し,韻文をもって書き,人類の始祖マヌが述べたものと仮託されてできたのが,この書である。これは12章2684詩句からなり,四姓制度と四住期([アーシュラマ])制度とを骨格として,バラモンの特権的身分が強調され,[バルナ]による差別を随所に述べて,彼らの身分的利益の確立と維持とを意図した。…
【貨幣】より
…銀は粒銀,延べ棒,環の形をして秤量され,ときにはそれに刻印がなされた。重量単位はシクルのほかにマヌmanu(60シクル),ビルトゥbiltu(60マヌ)があった。アッシリア帝国の王センナヘリブ(在位前704‐前681)は碑文のなかで半シクル青銅貨幣の鋳造を語っており,ペルシア帝国時代には後述のように金貨と銀貨が発行された。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」