日本大百科全書(ニッポニカ) 「マヌ法典」の意味・わかりやすい解説
マヌ法典
まぬほうてん
Manu-smti
古代インドの百科全書的な宗教聖典。紀元前200~後200年ごろに原型ができあがった。マヌとは「人類の始祖」を意味し、いっさいの「法」(ダルマ)に関する最高権威として崇(あが)められ、本書の成立と結び付けられている神話的人物である。
インドで「法」は宗教、道徳、習慣などをも意味するが、本法典では宇宙の開闢(かいびゃく)、万物の創造から説き始め、人が一生を通じて行うべき各種の通過儀礼や日々の行事、祖先祭祀(さいし)、学問、生命周期に関する規定、国王の義務、民法、刑法および行政に関する規定、カースト制の厳守規則や贖罪(しょくざい)の方法、最後に輪廻(りんね)と業(カルマ)および解脱(げだつ)に関する議論が詳細に論じられている。法律論的条項のうちには、相続法、婚姻法、裁判手続などもみられるが、バラモン階級を擁護する立場が全編を貫いており、またヒンドゥー教に強く彩られた慣習法の集大成として、むしろ宗教聖典としての性格が濃い。12章に分かれ、2684条のサンスクリット語韻文で書かれている。
[山折哲雄]
『田辺繁子訳『マヌの法典』(岩波文庫)』