マラナオ(読み)まらなお(その他表記)Maranao

日本大百科全書(ニッポニカ) 「マラナオ」の意味・わかりやすい解説

マラナオ
まらなお
Maranao

フィリピン南部ミンダナオ島中西部の南ラナオ州、ラナオ湖周辺を伝統的な居住地とする民族集団で、その大多数はムスリムイスラム教徒)である。マラナオ語を母語とする。人口は約86万9000(1995)で、フィリピン全人口の1.27%を占める。名称は、湖を意味する語「ラナオranao」に由来し、マラナオとは「湖畔の民」の意である。近年ではマニラに移住する人々も多い。生業は主として水田稲作であるが、マニラ移住者のなかには商業に従事する者も多数いる。マラナオ語は、隣接するイラヌンやマギンダナオの言語と類似している。マラナオは、マギンダナオ、タウスグサマなどの民族集団とともに、「モロ」と総称されたフィリピン・ムスリムを構成している。ただし、「モロ」は蔑称(べっしょう)として用いられてきたので、好ましい呼称ではない。フィリピン・ムスリムと総称するのが一般的である。

 フィリピン南部のイスラム化は14~17世紀に行われたとされるが、スル諸島(より現地音に近い正確な表記はスルー諸島またはスールー諸島となる)に始まったイスラム化の波がマラナオ社会に到達したのは、17世紀以降であったといわれる。イスラム以前のマラナオ社会は、インド文化の影響を深く受けていた。その要素は、叙事詩ダラガンによく反映されている。ダラガンは、マラナオの英雄にまつわる25前後の挿話で構成されており、踊りなどを伴う口承の伝統によって今に伝わっている。

 マラナオは、敷物や籠(かご)などの織物竹細工、動物の角(つの)などへの彫り物、鉄・銀細工など手工芸を発達させた。これらの工芸品には、「オキル」とよばれる植物や蛇のモチーフが施されている。

 フィリピン・ムスリムの宗教観念は、ヒンドゥーなどとの混交性から、一般的に「フォーク・イスラム(民俗イスラム)」と形容されてきた。今日もイスラムはマラナオ社会に大きな影響を及ぼし、人々の行動規範として重要な意義をもち続けている。

 南ラナオ州の州都マラウィ市は、フィリピンにおけるイスラム教育の中心地となっている。これは、1950年代以降、奨学生として中東でイスラム学を学ぶマラナオ人が増加したためである。彼ら留学生は、帰国後マドラサ(イスラム学校)を開き、アラビア語やコーランの教育に従事した。こうして70年代以降マドラサの数とその生徒数は増加し、85年の調査によると、フィリピン全土のマドラサ生徒の約半数が南ラナオ州に集中している。

[辰巳頼子]

『宮本勝・寺田勇文編『(暮らしがわかるアジア読本)フィリピン』(1994・河出書房新社)』

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