日本大百科全書(ニッポニカ) 「マリア・マグダレーネ」の意味・わかりやすい解説
マリア・マグダレーネ
まりあまぐだれーね
Maria Magdalene
ドイツの劇作家ヘッベルの市民悲劇。1844年初演。作者の修業時代滞在したミュンヘンの恋愛体験に想を得る。主題は、小市民社会の偏狭な倫理のもたらす悪弊の糾弾で、イプセンの社会劇の先駆といえる。指物師(さしものし)アントンは頑固者だが人情家の一面も備える。彼の道徳律を支配するのは世間体で、ほかのすべての登場人物も同様である。無情な男に捨てられ、父への申し訳なさから自殺する娘のクラーラも例外ではない。この悲劇の主人公に、イエスに救われる罪の女(マグダラのマリア)の名を与えたところに、作者の深い意図が読み取れよう。
[谷口 茂]
『鼓常良訳『マリーア・マグダレーナ』(岩波文庫)』