一般には19世紀ヨーロッパのリアリズム演劇のなかで,近代社会のもろもろの問題をとりあげ現状を批判的に描いた作品を指す。〈社会問題劇〉または単に〈問題劇〉ともいう。フランスのデュマ・フィスやÉ.オージェの劇は〈問題劇pièce à thèse〉と呼ばれたが,問題の掘下げ方は表面的だった。C.F.ヘッベルの《マリア・マグダレーナ》(1844)やB.ビョルンソンの《新婚夫婦》(1865),《破産》(1875)などに続いて,イプセンが社会劇を確立したとされる。彼は《社会の柱》(1877)で資本家の偽善をあばき,《人形の家》(1879),《幽霊》(1881)で現代の夫婦関係を批判,《人民の敵》(1882)で大衆の利己主義を告発した。A.アントアーヌの〈自由劇場〉,O.ブラームの〈自由舞台〉など前衛的な小劇場は好んで社会劇をとりあげたが,その運動のなかでE.ブリューの問題劇やG.ハウプトマンの《日の出前》(1889),《織工》(1892)などが生まれた。世紀の変りめにはロシアのゴーリキー,イギリスのG.B.ショーが,独自の社会批判劇を書いている。しかし〈社会劇〉をリアリズムに限らず社会批判を含む劇一般を指す語と解すれば,ギリシア劇以来の少なからぬ作品がその範疇に入るだろう。エウリピデス《トロイアの女》,ローペ・デ・ベガの悲喜劇,レッシング《賢者ナータン》などは典型的な社会批判劇である。20世紀のB.ブレヒト,A.ミラー,P.ワイス,R.ホーホフートらもその正統的な継承者といってよい。日本でもイプセンの影響下に中村吉蔵,真山青果らが社会劇を書いたが,昭和期の久保栄,木下順二らにも現代社会を批判するすぐれた作品がある。
→近代劇
執筆者:毛利 三彌
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
…このような時代背景の中で,個我の目覚めと市民的自由を追求した近代芸術は,必然的に同時代社会の諸矛盾に批判の光を投げかけるものとなった。近代リアリズム演劇もまた,社会問題から人間の内面的問題にまで及ぶ〈問題劇〉たる性格をあらわにする(社会劇)。この種の劇は既成劇場でなかなか受け入れられず,若い演劇人による〈小劇場〉運動によって広められていったが,その運動はヨーロッパの外までも波及し,日本では明治後期から形をなしてくる〈新劇〉運動の基盤ともなった。…
※「社会劇」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
米テスラと低価格EVでシェアを広げる中国大手、比亜迪(BYD)が激しいトップ争いを繰り広げている。英調査会社グローバルデータによると、2023年の世界販売台数は約978万7千台。ガソリン車などを含む...
11/21 日本大百科全書(ニッポニカ)を更新
10/29 小学館の図鑑NEO[新版]動物を追加
10/22 デジタル大辞泉を更新
10/22 デジタル大辞泉プラスを更新
10/1 共同通信ニュース用語解説を追加