日本大百科全書(ニッポニカ) 「ムシヒキアブ」の意味・わかりやすい解説
ムシヒキアブ
むしひきあぶ / 虫引虻
robber flies
assassin flies
昆虫綱双翅(そうし)目短角亜目アブ群ムシヒキアブ科Asilidaeの総称。この科のアブは、小形ないし大形で、体の太いものや細長いもの、体毛の深いものや少ないものなど変化に富んでいる。頭部は短く、幅は広い。複眼は大きいが、雌雄とも離眼的。触角は短小。口吻(こうふん)は下へ向いて短いが、太くてじょうぶにできている。胸部は大きく、背面は隆起する。はねはむしろ細く、翅脈はほぼ一様に分布し、中室があり、基室は長い。臀室(でんしつ)は開口または閉口。脚(あし)はじょうぶで各腿節(たいせつ)と後脚脛節(けいせつ)は太いものが多い。幼虫は長い円筒状で、頭部は小さく、胸部各節腹面にはそれぞれ1対の側剛毛がある。成虫はチョウ、ガ、ハエ、ハチ、コガネムシなどの昆虫をとらえ、じょうぶな口吻を突き刺して体液を吸う。幼虫は土中または腐植物中に生活し、昆虫類の幼虫を捕食する。
代表種のアオメムシヒキCophinopoda chinensisは体長20~28ミリメートル、翅長18~24ミリメートル。体は黄褐色ないし赤褐色。生時は複眼が青緑色に輝いているのでこの名がある。胸部背面は灰褐色ないし黄褐色の微粉を装い、黒褐色の3縦条がある。はねは褐色を帯びる。脚の各腿節は黒色、各脛節は橙黄(とうこう)色、脛節末端とそれ以下は黒褐色。日本全国、広くアジア各地に分布する。
オオイシアブLaphria mitsukuriiは、体長21~24ミリメートル、翅長20ミリメートル内外。体と脚が太く、毛深い種類。体の地色は光沢のある黒色で、長毛を密生する。その長毛の色は、顔面では黄色、口縁部では暗褐色ないし黒色、胸部の周縁では黄褐色ないし赤褐色のものの混合、腹部第1節より第4節の前半部までは黒色、それ以後の各節では赤褐色である。はねは褐色を帯びる。本州、四国、九州、台湾、中国に分布する。
チャイロオオイシアブLaphria rufaは、オオイシアブに似ているが、胸部背面の長毛は赤褐色。日本全国に分布する。アシナガムシヒキMolobratia japonicaは、体長17~22ミリメートル、翅長15~20ミリメートル。赤褐色で体と脚は長い。胸部背面は隆起し、暗褐色の3縦条がある。前脚脛節末端には棘(きょく)状突起がある。腹部は雌雄とも細長くて光沢があり、第1節は黒褐色、第2節以下は橙黄色。雌では第5節の前縁と後縁にそれぞれ細い黒色横帯があり、雄は第5、第6節は黒褐色。日本全国に分布する。
[伊藤修四郎]