日本大百科全書(ニッポニカ) 「マルハナバチ」の意味・わかりやすい解説
マルハナバチ
まるはなばち / 円花蜂
bumble bee
humble bee
昆虫綱膜翅(まくし)目ミツバチ科のマルハナバチ属Bombusに属するハナバチの総称。体は大形で、15~25ミリメートル、全体に長毛が密生し、毛色の違いで美しい模様がある。和名はそのずんぐりした体つきから、学名(属名のボムブス)はギリシア語で「ブーンと羽音をたてる」という意味で、英名も同様に「ブンブン飛び回るハチ」という意味。主として全北区に分布するが、中南アメリカや東洋の熱帯地域の高山(台湾では低山帯から高山帯)にも生息する。世界中に約400種が知られる。日本には琉球(りゅうきゅう)諸島を除く各地の山野に普通にみられ、14種が生息する。個体数も多い。トラマルハナバチBombus diversus、クロマルハナバチB. ignitus、オオマルハナバチB. sapporensis、コマルハナバチB. ardensなどは代表的な種類である。
[平嶋義宏]
生態
特徴的な社会生活(家族生活)を送る。交尾受胎をして地中で越冬した雌バチは春先に出現し、10日余りの探索ののちに、単独で巣づくりを始める。地中のネズミの旧坑道などが巣場所に選ばれ、まず一つの花粉団子をつくり、その上に8~10個の卵をまとめて産む。同時に蜜房(みつぼう)(ハニーポット)をつくり、蜜を蓄える。孵化(ふか)した幼虫は花粉団子を食べて成長し、やがて繭を紡ぎ、その中で蛹(さなぎ)となる。産卵後16~25日目に最初の働きバチが羽化し、まず蜜房の蜜を吸う。働きバチは母バチと同型であるが小形で、巣づくりを助け、食料(花粉・花蜜)を採集し、幼虫の世話をするが、産卵はしない。蜜房や育房(幼虫室)は、母バチや働きバチの腹部から分泌するろう物質でつくられる(ミツバチと同様)。
ミツバチやアシナガバチでは1匹の幼虫は一つの育房で育てられるが、マルハナバチでは一つの育房に数卵が産み込まれ、幼虫は集団で育てられる。幼虫の発育につれて育房は拡張されて大部屋となる。老熟幼虫は単独行動をとり、別々に繭をつくる。コロニー(集団)が発達すると、やがて雄バチが生まれ、生殖を行う。秋になるとコロニーは解散し、受胎して越冬する雌バチのみが生き残る。
コロニーの寿命はハチの生息地域の環境や種類によって差があり、寒帯では約2か月、日本では春から秋まで、熱帯、たとえばブラジルのボムブス・アトラタスB. atratusでは2年以上も続く。
マルハナバチヤドリ属Psithyrusのハチは、マルハナバチに形態的に酷似している事実が示すように、マルハナバチから進化して、マルハナバチの巣に社会寄生するようになったハナバチである。マルハナバチヤドリの雌バチはマルハナバチの巣に侵入、母バチを殺し自分の卵を産み、マルハナバチの働きバチに育てさせる。
[平嶋義宏]
人間生活との関係
マルハナバチは重要な花粉媒介昆虫で、各種の花を訪花する。ミツバチよりも長い口吻(こうふん)をもっているため、クローバーには欠くことのできない昆虫である。ニュージーランドが世界の羊毛王国になりえたのは、イギリスから輸入したマルハナバチが定着し、ヒツジの食草であるクローバーの種子生産に貢献したためである。
[平嶋義宏]