日本大百科全書(ニッポニカ) 「コガネムシ」の意味・わかりやすい解説
コガネムシ
こがねむし / 金亀子
黄金虫
[学] Mimela splendens
昆虫綱甲虫目コガネムシ科に属する昆虫。日本各地に産するほか、東シベリア、朝鮮半島、台湾、中国、ミャンマー(ビルマ)などに分布する。体長17~23ミリメートル。卵形で強い金属光沢をもち、金緑色でときに赤紫色を帯び、まれに赤紫色や黒紫色になる。6~7月に現れ、クヌギ、ナラ、サクラなどの広葉樹の葉を食べる。幼虫は地中にすみ、木の根を食べ、卵から成虫まで1、2年かかる。
コガネムシ科Scarabaeidaeは、およそ2万5000種が知られており、世界中に広く分布しており、日本にも約300種が産する。この科の甲虫は、体長2ミリメートルほどの微小なものから、ヘラクレスオオカブトムシの16センチメートルまでさまざまな大きさの種類があり、卵形から楕円(だえん)形のものが多いが、円形や長い円筒形の種類もある。触角は8~10節、先端の3~7節は片側に長く伸びていて互いに密着でき、えら状か球状。腹部は6節認められ、背部先端の尾節板は大きくて強く傾斜し垂直のことも多く、上ばねから露出することが多い。脚(あし)の跗節(ふせつ)は5節である。
[中根猛彦]
分類
この類は、大別して食糞類(しょくふんるい)と食葉類(しょくようるい)に分けられ、後者が植物質を食としているのに対して、前者は主として動物の糞や死肉に集まり、幼虫は地中で成虫によって運ばれた糞塊や肉塊を食べて育つが、キノコや腐植土を食べるものや、朽ち木の皮下、草の根際、アリ、シロアリの巣にすみ特殊化したものなどがある。
[中根猛彦]
食糞類
この類には次の2亜科が含まれる。
(1)ダイコクコガネ亜科 糞球を転がすので有名なタマオシコガネの類、雄の頭胸背部に角(つの)や突起をもつダイコクコガネ、ツノコガネ、エンマコガネの類など典型的な糞虫がここに属し、ナンバンダイコク属Heliocoprisのような大きい種類もある。
(2)マグソコガネ亜科 小形で円筒形の種類が多く、糞に多いが、枯れ木の皮下やアリ、シロアリの巣にすむものもあり、ニセマグソコガネの類は川岸の砂地などにみられる。
ほかに、現在別科とされているコブスジコガネ(背面に普通、凹凸や短毛束があり、動物の死体にくる)、センチコガネ、アツバコガネなどの類も食糞類に入れられていた。
[中根猛彦]
食葉類
この類には6亜科が含まれ、すべて植物質を食べるので人目につく種類が多い。
(1)カブトムシ亜科 カブトムシをはじめヘラクレスオオカブトムシ、アトラスオオカブトムシなど大形種を含むが、クロマルコガネのような10ミリメートル前後のものもある。幼虫は朽ち木や腐植質を食べて育つ。
(2)コフキコガネ亜科 長形の種類が多く、植物の葉を食べる。ヒゲコガネ、シロスジコガネのように白い模様のある種類もあるが、一般には褐色から黒色のクロコガネの類のように単色のものが多い。成虫は灯火によく集まり、幼虫は地中にいて木の根を食べている。
(3)ビロードコガネ亜科 卵形から長卵形の小形の種類が含まれ、背面の光沢が鈍く、ビロード様の感じを与えるものが多い。草木の葉を食べるが夜間活動し、灯火にもよくくる。幼虫は地中で根を食べている。
(4)スジコガネ亜科 夜間灯火に集まる金属光沢をもつ卵形の種類で、ドウガネブイブイ、スジコガネ、ヒメコガネなどがこの類に属する。北アメリカに侵入して農作物に大害を与えたマメコガネもこの類である。
(5)ハナムグリ亜科 四角張った体でよく飛ぶ。ハナムグリ、カナブンなど花や樹液に集まるものが多く、巨大なゴライアスオオツノコガネもこの類である。トラハナムグリ、ヒラタハナムグリも花に集まるが、それぞれ別亜科とされることが多く、ヒゲブトハナムグリ類も別亜科または別科とされる。
(6)テナガコガネ亜科 沖縄のヤンバルテナガコガネは、日本最大種として有名。
[中根猛彦]
民俗
ファーブルの『昆虫記』で知られるスカラベ・サクレ(タマオシコガネの1種)は、古代エジプト人にとって神聖な昆虫であった。土の中に入り、のちにまるで生き返ったように現れる生態から、この虫は不死の象徴となり、ミイラに添えて葬られた。この習俗の起源はきわめて古く、先王朝期(前3500以前)の墓からも発見されている。花崗岩(かこうがん)や宝石をこの虫の形に刻んだ御守りもあり、それには、魂の裁判のとき神々が敵意をもたないことを願う文字が彫られているものもある。ヘリオポリスの人々によって祀(まつ)られた神ケプリ(ケペリ)は、この虫の神格化で頭部を虫の形にした男、あるいは顔の部分を虫にした男、頭上に虫をのせた男などの姿で描かれ、1匹の虫の形で表現されることもある。ケプリという語には、「スカラベ・サクレ」と同時に「自ら生成するもの」という意味があり、生命の更新を表す神として崇拝された。太陽を運行する神とも考えられ、この虫が玉を転がすように、巨大な虫の姿で太陽を転がしているとも想像された。特定の甲虫類を御守りにする習俗は世界各地にあった。ヨーロッパではシレジア人が、季節の最初のコフキコガネ属の一種をとらえ、小さな布袋に縫い込んで発熱の際の御守りにした。中国では愛される呪(まじな)いに甲虫類を飼う習俗があり、コガネムシの一種も用いたらしい。日本では、よくコガネムシの胴を糸で結び子供のおもちゃにした。『松翁道話』(1814)には、平安後期の盗賊熊坂長範(くまさかちょうはん)が子供のとき糸につけて遊んでいたコガネムシが銭箱に入ったので引き上げると銭をつかんできた、それが盗みの始めであると書かれてある。金銭にしがみつく人間を例えてコガネムシともいう。日本では一般にコガネムシは珍重されなかった。ヒメコガネなどコガネムシ類を集め、干してニワトリの餌(えさ)にした地方もある。
[小島瓔]