ムーア人(読み)ムーアジン(英語表記)Moor

翻訳|Moor

デジタル大辞泉 「ムーア人」の意味・読み・例文・類語

ムーア‐じん【ムーア人】

Moorモロッコモーリタニアなどアフリカ北西部に住み、イスラム教徒アラビア語を話す人々の称。本来はマグレブの先住民ベルベル人をさしたが、15世紀ごろからはイスラム教徒全般をさすようになった。モール人モロ

出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例

精選版 日本国語大辞典 「ムーア人」の意味・読み・例文・類語

ムーア‐じん【ムーア人】

  1. 〘 名詞 〙 ( ムーアはMoor )
  2. 七、八世紀ごろイベリア半島を征服したアラブ人、ベルベル人混成のイスラム軍呼称
  3. ヨーロッパ人が北西アフリカ(マグレブ)のイスラム教徒を呼ぶ語。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報 | 凡例

改訂新版 世界大百科事典 「ムーア人」の意味・わかりやすい解説

ムーア人 (ムーアじん)
Moor

ヨーロッパ人が,北西アフリカ(マグリブ)のイスラム教徒を指す呼称。フランス語でモールmaure。とくにベルベル,およびアラブ化したベルベルを指して用いられる場合が多い。

 古代ギリシア・ローマ時代に,北西アフリカの住民(ベルベル)をマウロスMauros,マウルスMaurusと呼んだことに由来し,前1世紀には,北西沿岸地帯にローマの属州マウレタニアが設けられた。マウロス(マウルス)の呼称は,フェニキア人がベルベルを呼んだマウハリム(〈西国の人〉の意)にさかのぼるといわれる。7世紀以降,北アフリカのアラブ・イスラム化が進み,8世紀にアラブ・ベルベル混成のイスラム軍がイベリア半島に進出すると,原住のスペイン人はこれをモロ(ムーア人)と呼んだ。モロは,スペインでは,アラブ,ベルベルの別を問わずイスラム教徒一般を指す呼称となり,またイスラム教徒のイベリア半島支配期(アンダルス)には,建築,工芸,詩文学などの諸分野でアラブ・イスラム文化とキリスト教・ラテン文化の交流・融合が生まれ,これを〈ムーア文化〉〈ムーア様式〉と呼ぶ場合もある。レコンキスタ国土回復戦争)後,モロ(ムーア)は,再び北西アフリカの異教徒住民を指すようになるが,新大陸を経由してフィリピンに至ったスペイン人は,再度ここでイスラム教徒の原住民と遭遇することになり,これをモロ族と呼んだ。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ムーア人」の意味・わかりやすい解説

ムーア人
むーあじん
Moor

アフリカ北西部に住むイスラム教徒で、8世紀にイベリア半島を侵略し、そこに定着したベルベル人とアラブ人の混合民族。彼らが当時のモーリタニア地方からきたことから、ラテン語でマウリMauriスペイン語でモロスMoros、英語・オランダ語ではムーアとよばれた(フィリピン南部に住むイスラム教徒に対しても同様に、スペイン人はモロとよんだ)。今日ではムーア人といえばモロッコ、モーリタニア(フランス語でムーア人の国の意)などアフリカ北西部に住み、イスラム教徒でアラビア語を話す人々全体をさす。また、ムーア人が人口の8割を占めるモーリタニア国民をさすこともある。ムーア人が黒人だという観念は、シェークスピアの戯曲『オセロ』によって誤って広められたもので、ムーア人は人種的にはコーカソイドの地中海集団に属する。ムーア人の多くはサハラ砂漠を基盤に遊牧生活を送っており、コブウシ、ヒツジ、ヤギ、ラクダなどの家畜の飼育と交易が生業の中心である。

[片多 順]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

百科事典マイペディア 「ムーア人」の意味・わかりやすい解説

ムーア人【ムーアじん】

モール人とも。8世紀初め以降イベリア半島に侵入した北アフリカのイスラム教徒へのヨーロッパ人による呼称。北アフリカ地方の原住民を意味するMauri(ラテン語),Moros(スペイン語)に由来。実際にはベルベル人をさす場合が多いが,のちにはイスラム教徒一般の意味でも使われた。スペイン人はフィリピンのイスラム教徒原住民をもモロ(ムーア)と呼んだ。
→関連項目モリスコ

出典 株式会社平凡社百科事典マイペディアについて 情報

旺文社世界史事典 三訂版 「ムーア人」の解説

ムーア人
ムーアじん
Moors

本来はモロッコ地方に住むベルベル人をさす名称
7世紀にアラビア人に征服されてしだいに改宗・混血した人々。これがイベリア半島を征服したとき,スペイン側からモロスと呼ばれ(ムーアは英語読み),さらに北アフリカのイスラーム教徒一般にも適用された。なお,16世紀後半からスペインの植民地とされたフィリピン諸島の南部で,東南アジア経由でイスラームに改宗した人々をさすモロの名称も,これに由来する。

出典 旺文社世界史事典 三訂版旺文社世界史事典 三訂版について 情報

山川 世界史小辞典 改訂新版 「ムーア人」の解説

ムーア人(ムーアじん)

ベルベル人
モロ人

出典 山川出版社「山川 世界史小辞典 改訂新版」山川 世界史小辞典 改訂新版について 情報

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ムーア人」の意味・わかりやすい解説

ムーア人
ムーアじん

「ベルベル人」のページをご覧ください。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のムーア人の言及

【モロ族】より

…フィリピンのイスラム教徒を総称する名称。16世紀後半にフィリピンを占領したスペイン人植民者によって命名された。スペイン人は8世紀にアフリカ北西部(ローマ時代のマウレタニア,現在のモロッコ,モーリタニア地方)からイベリア半島へ進出してきたアラブやベルベル人をモロ(ムーア人)と呼んだ。マウレタニアの住民を指すラテン語マウルスmaurusがその語源である。スペインではやがて〈モロ〉は〈イスラム教徒〉の同意語となった。…

【アフリカ】より

…アフリカは面積3030万km2,人口7億2036万(1996),面積ではアジアに次ぐ世界第2の大陸である。赤道をはさんで同心円状に,熱帯雨林,サバンナ,砂漠,地中海気候帯と多様な自然をもっている。サハラ砂漠をはさんで,北は西アジア・地中海世界とひとつづきのハム・セム系の文化をもつ白人(コーカソイド)が支配的な白人アフリカ,南は,ピグミーやコイサン(サン,コイ・コイン)の非黒人先住民と,おそらく北西部から移住拡散した黒人(ニグロイド)の世界,すなわち黒人アフリカである。…

【サハラ砂漠】より

… 石器の上からは,不明な点の多い旧石器時代のあと,石鏃を中心とする細石器が著しいカプサ文化(いまのチュニジアのあたりが中心),握りのついた磨製石斧に特徴のあるテネレ文化(エジプト西部が中心),骨や象牙を使った銛や装身具も含むスーダン文化(ナイル中流あたりが中心)などの新石器文化が認められる。
[住民]
 (1)アラブの侵入以前のベルベルと総称される住民,(2)西アジア起源のアラブ,(3)ムーア人(モール人)と総称される著しくアラブ化された住民,(4)サハラ以南起源の黒人,の四つに大別できる。(1)ベルベルの語源は不明であるが,古代ローマ人が北アフリカの住民を指したバルバルスbarbarus(異人),あるいは北アフリカの住民の一集団の名Bavaresがアラブを経て受け継がれたらしい。…

【マウレタニア】より

…古代の北アフリカにおけるマウリ族(ムーア人)の居住地域。今日のアルジェリア西部からモロッコ大西洋岸までの区域で,現在の西アフリカの国の名モーリタニアはこの呼称に由来する。…

【モーリタニア】より

…大西洋沿岸は遠浅で大陸棚が広く,南流するカナリア海流(寒流)とも相まって,好漁場となっている。 気候は,ほぼ北緯17度線を境に,北が年降水量200mm未満の砂漠気候(国土の80%)で,ムーア人(モール人)の居住地域,南が200~500mmのサヘル(ステップ)気候で,農牧業を行う黒人系諸部族の居住地域となっている。雨季は夏の3ヵ月が中心で,雨が少ないと干ばつになりやすい。…

※「ムーア人」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

プラチナキャリア

年齢を問わず、多様なキャリア形成で活躍する働き方。企業には専門人材の育成支援やリスキリング(学び直し)の機会提供、女性活躍推進や従業員と役員の接点拡大などが求められる。人材の確保につながり、従業員を...

プラチナキャリアの用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android